ユウシュンラン
祐舜蘭 ラン科 キンラン属
Cephalanthera subaphylla Miyabe & Kudo
( Cephalanthera erecta var. subaphylla Ohwi )
絶滅危惧Ⅱ類(Vulnerable)
今年(2015年)、栃木県で花が開花した状態のユウシュンランを
初めて見ることができました。 2013年に新潟県で初めてツボミの
状態で見ることができて以来、ずっと開花した状態を見たいと思って
いたので、大感激です。
低地〜山地の落葉樹林下に生える、高さ10〜15cmの多年草です。
腐植土層の厚い半日陰のような場所を好むようです。 発見した場所
もそのような所で、登山道脇の林縁の、幅15mx奥行き3mほどの範
囲に6株、見つかりました。
下部の葉は退化し小さい鞘状になっています。 上部の1〜2個の葉
(一番上は、苞葉?)はやや大きく、長さ約3cm、幅1〜1.5cmあります。
葉が退化しているということは、それだけ菌類への依存度を高めている証
とも言えます。
花は茎頂に2〜5個つけることが多いようです。 花は白色で、
ほぼ上を向き、半開します。 今回見ることができた中には、全
開に近い花もありました。 羽を広げて大空を飛ぶ鳥を思い起こ
させるような形だと思いました。
和名は、植物学者の工藤 祐舜(くどう ゆうしゅん)氏に因みます。
花は上を向き・かつ内向き、つまり茎の方向を向いて咲く花が多かったです。
このため茎や他の花が邪魔となり、なかなか花の正面からの撮影が難しかったのです。 でも真上から見ると、こんな風に仲良く輪になって踊っているようにも見え、微笑ましくなってしまいます。
上はユウシュンランの花の構造です。 特徴は以下の通り。
・花全体としては白色。
・背萼片は披針形で長さ約9mm。 前方に緩く湾曲する。
・側萼片はやや歪んだ形状で、背萼片より少し長い。 左右に半開〜全開する。
・側花弁は、唇弁とともに蕊柱を包み込むようになっています。
・唇弁は縁と隆起線が茶褐色になります。 鉄錆色と表現した方が近いかも。
傷んでいるように見えますが、フレッシュな状態でこのような色になります。
・距は大きく長く、先端がやや前方に突き出します。 唇弁と距の中間付近に、
まるで指でつまんだような形状の突起がありました。
花の側面は、上の写真のような様子です。
ユウシュンランの花柄子房に注目すると、ねじれはないことがわかりました。 ユウシュンランは、花柄子房をねじらずに唇弁を下側につける「ストレート・唇弁下側タイプ」のランです。
さて、図鑑などで調べると、本種は「ギンランの変種」という位置づけです。
学名も Cephalanthera erecta var. subaphylla Ohwi です。 Cephalanthera erecta はギンランのことで、var.は変種(variant)を指します。
今回初めて開花した状態を見ることができたのですが、とても違和感を覚えました。 ギンランとはあまりに違って見えたからです。 この植物がギンランの変種であるとは、にわかには信じがたいと思いました。
ギンランとの相違点をここに書こうとも思ったのですが、逆に、似た点を述べた方が早い気がします。 似た点は... 同じキンラン属で、4〜5月に咲き、白色の花を咲かせ、唇弁の隆起線が褐色になる ことくらいしかないのでは?と思います。 つまり、それら以外は異なるのです。
葉のつき方・大きさ・形状・数、花のつき方・形状・数 などを比べて「同じ様です」と言える項目はなく、どう見ても別種のように思われます。 本種は、そもそもギンランとは別の独立種として、宮部金吾氏と工藤祐舜氏により Cephalanthera subaphylla Miyabe & Kudo の学名で1932年(工藤氏の没年)に発表されました。 その後どのような経緯でギンランの変種とされたのか、納得できる情報を見つけられていません。
やはり、ギンランとは別種とする方が自然だと思います。
以上より、当サイトにおいては、首記の学名を工藤祐舜氏の発表に従い、独立種である Cephalanthera subaphylla Miyabe & Kudo と記し、現在大勢を占めている、ギンランの変種とした Cephalanthera erecta var. subaphylla Ohwi はカッコつきで記載することにしました。
シロウトのサイトとは言え、勝手に古い学名を記載してよいものか? ちょっと悩みました。 しかし今年発行されたランの専門書「日本のラン ハンドブック ①低地・低山編」(文一総合出版 2015年5月1日初版発行)には、このように書かれていました。 『ギンランの変種とする見解もあるが、葉とともに花の形態が異なっているため、独立種とするのが適当である』。
日本のランの専門書としては、なんと23年ぶりの刊行だそうです。 遺伝子解析法を始め、この間の調査・分析・解析手法の進歩は、きっと隔世の感があるでしょう。最新の図鑑にシロウトの意見を後押しする記載があったことを根拠に、学名の記載方法を上のように決めました。
難しいことはさておき、ユウシュンランは小さいけどとても可愛い
花なので、見つけた際にはぜひじっくり観察してみて下さいね。
2015.07.20 掲載
ラン科属名別1(ア〜サ行) ラン科属名別2(タ〜ワ行)2 絶滅危惧ll類
● ユウシュンランの古いページ ●
ユウシュンランの掲載ページ
Dairy-Hiroダス2013 5月2日 渋滞なしの花さんぽ
他のラン科キンラン属の植物
藤村義幸 (月曜日, 22 5月 2017 05:42)
一昨日、職場の入り口の傍で、10株ほどんのユウシュンランを見つけました。
私も初めて見る花で、図鑑で調べ名前を知りました。ギンランも一緒に咲いています。小さい花なのでこれまで目に入らなかったようです。
小さくてかわいいですね。
栃木県那須町湯本にて
Ken (月曜日, 22 5月 2017)
ホッとな情報をありがとうございます。
職場の近くでユウシュンランがたくさん見られるとは、羨ましい限りです。 今咲くということは、冬場はかなり寒冷な環境ですね? そしてすぐ近くには樹木も多いと想像します。 ユウシュンランの葉は小さいですが、それだけ菌類への依存度が高いのだと思います。 キンラン・ギンランと同様、土壌中の菌類を介して、樹木から養分を受け取っているのでしょうね。