マメヅタラン

 

豆蔦蘭 ラン科 マメヅタラン属

Bulbophyllum drymoglossum Maxim. ex Okubo

準絶滅危惧  ( Near Threatened )

#1 マメヅタラン (豆蔦蘭) ラン科 マメヅタラン属  2015.05.31 奥三河
#1 マメヅタラン (豆蔦蘭) ラン科 マメヅタラン属  2015.05.31 奥三河

 

 山地の樹木や岩に着生する、常緑の多年草です。 根茎は枝分かれしながら、細長く伸びます。  樹木や岩の表面を這い回り、密集してしばしば大群生をつくります。 その姿がシダ植物のマメヅタに似ていることが、名の由来です。

 

#2 マメヅタランの群生  2010.04.24 福島県いわき市
#2 マメヅタランの群生  2010.04.24 福島県いわき市

 

 上は、2010年に初めて見ることができたマメヅタランです。 福島県の花友さんに案内していただき、見ることができました。 図鑑(*1)では「分布域は本州の関東地方以西・四国・九州・沖縄」となっていましたが、実際の北限は、少なくとも福島県であると言えます。

 

 川の対岸の切り立った岩壁に、いくつも群生を形成していました。 花の時期には、まだ早すぎたようでした。

 

 しかし、遠い! 直線距離で40mほどだったか? たとえ対岸に渡ったとしても、岩の高い部分にあるので、とても近づけなかったでしょう。 900mm相当のコンデジで撮影してもこの大きさにしか写せません。 画質悪化を覚悟でトリミングしてみたのが、下の写真です。

 

#3 マメヅタランの群生 福島県
#3 マメヅタランの群生 福島県

 

 トリミングしても、細かな部分が見えないことに変わりはありませんね。 でも密生した様子のイメージはわかります。。

 

 こんなことがあり、「もっと近くで見た〜い!」と思っていましたが、なかなか他の自生地の情報が得られませんでした。 そして5年が経ち、愛知県の花友さんから、近くで見ることができる場所を教えていただいたのです。 さっそく奥三河に遠征しました。 次の写真です。

 

#4 マメヅタラン  2015.05.31 奥三河
#4 マメヅタラン  2015.05.31 奥三河

 

 一汗かいて山を登り、しばらく歩いて、自生地を見つけることができました。 人の背丈より大きい岩に、貼り付くようにしていました。 福島県で見た群生とは比べるべくもないほど小さい株ですが、目の前の、手が届く場所にいてくれました! しかし、あ〜残念!  今度は花の時期には遅すぎた〜! 自然を相手にした花観察は、なかなかうまくいかないものです。

 

 それにしても、図鑑(*2)には「温暖帯の沢沿いの木や岩など、空中湿度が高く安定したところに生育する」とありましたが、ここは山の稜線上です。 当然、近くに沢などもありません。 ここはどちらかと言えば乾燥しがちで、環境の変化も大きそうな場所だったことが、不思議でした。 しかし株はとても元気に見えたので、マメヅタランにとって居心地のよい場所なのでしょうね。

 

#5 岩に着生したマメヅタラン  縦横無尽に根茎を張り巡らせ、葉をたくさんつけていた
#5 岩に着生したマメヅタラン  縦横無尽に根茎を張り巡らせ、葉をたくさんつけていた

 

 確かにこのような姿は、マメヅタによく似ていますね。 マメヅタも似たような環境に生えることがありますし、ときには混生していることもあるそうです。

 

 このため「あっ、マメヅタラン見つけた!」と思ってよく見たらマメヅタとわかってガッカリしたり、逆にマメヅタランであったのに「なんだ、マメヅタか」と思って通り過ぎてしまうこともあるかも知れませんね。 それは残念なことです。 マメヅタとの見分け方については後半で述べますが、マメヅタランはマメヅタに対して、圧倒的に少ないです。

 

#6 樹木にも着生するマメヅタラン
#6 近くの樹木にも着生していました。
#7 マメヅタランの葉
#7 マメヅタランの葉
#8 マメヅタランの葉は葉は1節に1個つきます
#8 葉は1節に1個つきます

 

#7:マメヅタランの葉は常緑で、多肉質です。  葉脈は見えません。 倒卵形で、

   先端は丸い。 長さは 6〜13mm、幅は 5〜10mm。 革質で、触ってみる

   と、けっこう固い感触でした。

 

#8:葉は根茎の1節に1個つきます。 無毛で、葉柄はありません。 葉を横から

   見ると、裏面に向けて、やや湾曲したようになっています。 やや反り返る

   感じ。 マメヅタラン属の仲間は、偽球茎をもつのが普通ですが、本種には

   偽球茎がないことが、特徴の一つです。 (#8は、落ちてしまっていた根茎

   の一部を拾い上げて撮影しました)

 

#9 マメヅタランの葉脈は見えません。 全体に小さな凸凹がありました
#9 葉脈は見えません。 全体に小さな凸凹がありました
#10 マメヅタランの花
#10 マメヅタランの花

 

 ほんのわずかですが、花が咲き残っていてくれました!

ここまで来て空振りだったら、かなりブルーな気分になっ

ていたと思うので、よかったです。 びっしりとたくさん

の花を咲かせた姿が見たかったですが、贅沢は言えません。

 

#11 2連で咲くマメヅタランの花  左側の花が変? 後で説明します。
#11 2連で咲くマメヅタランの花  左側の花が変? 後で説明します。
#12 マメヅタランの花
#12 マメヅタランの花

 

 長さ1cmに満たない、小さな花です。 花茎は長さ7〜10mm。 萼片・足下弁は透明感のある淡黄色、唇弁は淡紫色の斑紋があります。  とても可愛らしい花でした。尚、唇弁に斑紋が無いタイプもいます。

 

#13 マメヅタランの花の構造(背萼片、側花弁、側萼片、唇弁、蕊柱)
#13 マメヅタランの花の構造

 

 #13でマメヅタランの花の構造を説明しています。 左側の花は変な姿に見えますが、なんと逆さまについているのです。 なぜこのようになったのかは、わかりません。 でもこのお陰で、花の前方と下方を同時に観察することができました。

 

 背萼片と側萼片は広披針形で、長さ6〜10mm、側花弁は長さ約4mm、そして唇弁は長さ約3mmで、萼片より短いです。 普通のラン科の植物は、唇弁を大きくして目立たせ、送粉者に見つけてもらいやすくするものですが、マメヅタランは異なる方法を取っているようです。 個人的な見解ですが、萼片を明るい淡黄色にすることで、花全体を目立たせているのかも知れません。

  

 唇弁は先端は淡黄色ですが、中央から奥にかけて淡紫色の斑紋があります。 これは蜜標の役割があるのだと思います。 蜜標とは、訪花昆虫に蜜腺の位置を案内するガイドのようなものです。

 

 また、唇弁の基部は蝶番のようになっていて、動くそうです。 送粉者が訪れたときに、花粉塊をつけやすくする仕組みかも知れません。 このことはすっかり忘れていて、どのように動くのかは、試しませんでした。 もし試すなら、花が非常に小さいので、虫眼鏡と爪楊枝のような物が必要になりそうです。

 

#14 マメヅタランの花
#14 マメヅタランの花

 

 マメヅタランの唇弁は反り返ります。 また縦に2本の隆起線があり、その結果唇弁の中央部はまるでU字谷のようになっています。 谷の奥には、蕊柱が立っています。

 

#15 マメヅタランの苞
#15 マメヅタランの苞

 

苞は卵形・膜質で、長さ約1.5mmと小さく、先端が尖っています。

 

#16 マメヅタランの終わった花
#16 終わった花

 

終わった花は、上のようになっていました。

最後に、よく似たマメヅタとの見分け方について述べます。

 

#17 マメヅタラン
#17 マメヅタラン
#18 マメヅタ
#18 マメヅタ

 

 #17はマメヅタランで、#18はシダ植物のマメヅタです。 よく似ています。

写真は、あえて葉の密度が低い部分にしています。 マメヅタランの葉の方が小さく、やや白色がかっています。 マメヅタの葉はやや扁平です。 並べて比較しないとわかりにくいとは思います。 マメヅタランが花を咲かせていない限り、よほど慣れていないと、遠目ではなかなか見分けることが難しいと思います。 

 

 マメヅタランの根茎は太さがほぼ一定で、あまり分岐せず、葉は根茎に沿って列をなすようにつきます。 一方マメヅタの根は細く分岐し、ひげ根状になり、葉はバラバラとランダムにつく印象です。 しかし葉の密度が高かったり、コケに覆われている部分に生えて根が見えにくいと、わかりにくいと思います。

 

#19 マメヅタは胞子嚢をつける
#19 マメヅタは胞子嚢をつける
#20 マメヅタの胞子嚢
#20 マメヅタの胞子嚢

 

 マメヅタはシダ植物なので、胞子嚢をつけます。 冬場でも、数は少ないですがつけていることがあります。 もし胞子嚢があれば、マメヅタであることの決定打になります。 但し前述したとおり、混生していることもあるので、よく観察することが必要です。

 

 以上です。 いつの日か、花をどっさりつけたマメヅタランを見たいものです。

 

 

< 引用・参考文献、及び外部サイト >

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*1 山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花 増補改訂新板

   http://www.yamakei.co.jp/products/2811070210.html

   山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.95

 

*2 日本のラン ハンドブック ①低地・低山編

   http://www.bun-ichi.co.jp//tabid/57/pdid/978-4-8299-8117-7/catid/1/Default.aspx

   文一総合出版 2015年5月1日 初版第1刷 p.88

   http://www.bun-ichi.co.jp/

 

*3 一日一花 季節の野草

   マメヅタラン

   http://okuchan-yasou.sakura.ne.jp/kobetu/ma/ma/mamedutaran.htm

 

*4 重井植物園

   マメヅタラン

   http://www.sun-inet.or.jp/~iab29az/syokubutu/sp0107.html

 

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2017.05.19 掲載

 

コメント: 2 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    ゆき (月曜日, 22 5月 2017 17:03)

    こんばんは、hiroさん、Kenさん、マメズタラン、ありがとうございます‼すごく、見たかったです。お花も、咲いている姿、いいですね。詳細まで、じっくりみてしまいました、最初の福島の自生地は、川と高さに、育まれて、大群生、はなれてるから、撮影も、大変さが、わかります。沢に、行くときなど、双眼鏡も、持っていくのですが、なかなか、みることが、叶いませんね。お二人に、感謝して、写真を嬉しく拝見しました。

  • #2

    Ken (月曜日, 22 5月 2017 18:31)

    ゆきさん、こんばんは。いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。
    マメヅタランはずっと見たかったので、念願叶って見ることができたときは、嬉しかったです。人が簡単に近づけない高木の上や、断崖絶壁に生えることが多いようなので、もしかすると一般に思われているよりは、たくさんいるのかも知れないですね。いつかまた簡単に近づける場所が見つかりましたら、お知らせしたいと思います。