葉緑素を持たない、菌従属栄養植物です。 光合成を行わず、
菌根菌に寄生し、養分を略奪して生きています。 落ち葉の積
もった、やや湿り気のある場所に生えていました。 全体的に
薄い褐色のような色合いで、目立ちません。
ムヨウランの変種(*1)とする見解もあります。 ここでは
独立種として扱っています。
高さは20~40cm、常緑広葉樹林下に生えます。 北陸地方から
東北地方南部に分布しします。 花期は5〜6月とする説や6〜7月
とする説があります。 花が少ないのであまり観察されていないの
かも知れません。
花はわずかに半開した状態で終わることが多く、完全に開花した
状態はなかなか見ることができないようです。 これは蕾の状態で
花粉が成熟し、自家受粉が完了していることと関係がありそうです。
開いている花が多い株でも、この程度。 半開にも満た
ない感じでした。 花は横〜やや下向きに咲いていました。
花被は、ごく淡い紫色を帯びています。
無葉蘭属の名のとおり、普通の葉はありません。 茎に退
化した鱗片状の葉があります。
唇弁には黄色い毛が生えていました。 この花では萼片などに多数の小突起がありました。 花柄子房や花被片の小突起は、ムヨウランとの識別ポイントであるとする説があります。 一方、小突起は昆虫の食痕が成長とともに大きくなったものであり、人為的に針で傷をつけても同様な突起になることから、種の識別の決め手にはならないとする説もあるようです。
なかなか撮影が難しい花でした。 唇弁の
毛が明瞭にわかるのはこの写真のみでした。
花は少し古くなってしまっていました。
花柄子房には明確な「ねじれ」が観察できました。 ホクリクムヨウランは花柄子房を180度ねじらせて唇弁を下方につける、標準タイプのランです。 これを見て、ムヨウランのページに訂正をかけました。 ムヨウランはねじれが見られなかったのですが、それは蕾の状態の観察であったのです。 これは適切ではありませんでした。 ホクリクムヨウランが標準タイプであるなら、近縁種のムヨウランも同じである可能性が高いですが、証拠写真がないので「保留」としました。
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#7は#6の一部を拡大したものです。 花柄子房と萼片の接合部には副萼と呼ばれる部分があります。 このすぐ下の部分(花柄子房の最上部)が膨らむ/膨らまない ことが、種の識別点の一つです。 ホクリクムヨウランは、膨らみません。
また、花柄子房には微突起がありましたが、これについてはほとんど見えない個体もありました。 花柄子房の微突起は、種の識別に使える安定した形質とは言えないようです。
副萼の下が膨らまない種としては、本種の他にムヨウラン、キイムヨウランなどがあります。 膨らむ種としては、ウスキムヨウラン、エンシュウムヨウランなどがあります。
副萼の下が膨れる例として、エンシュウムヨウランの画像を#8に示しました。
(*1)Lecanorchis japonica Blume var. hokurikuensis (Masam.) T.Hashim.
2014.11.09 掲載
2017.10.10 加筆・画像追加