暖温帯の落葉広葉樹林、常緑広葉樹林のやや明るい林床に生育するランです。 本州の岩手県以南、伊豆諸島、四国、九州、屋久島などに分布します。 花期は7〜8月、開花時の高さは5〜20cm(*1) 。
普通葉を持たない、菌従属栄養植物です。 根に菌根菌を住まわせていますが、自身は光合成をする能力は失っているので、光合成生産物である炭素化合物を菌類に渡すことはありません。 菌類から一方的に養分を奪取して生きています。 植物が菌に寄生している形です。 菌根菌は担子菌門のケラトバシディウム属だそうです(そう言われてもピンと来ませんが... *1)。
菌従属栄養植物は一風変わった外観をもつ植物が多いですが、本種もその例外ではありません。 花も茎も淡いみかん色ですし、少々奇妙な形をしています。
本種には「唇弁が花の上側につく」という興味深い特徴もありますが、残念ながら観察時は見頃の時期を過ぎており、それがわかる写真は撮影できませんでした。 将来、状態のよい花に出会えたら掲載したいと思います。
ヒメノヤガラは、ぜひ見たい花の一つだったのですが、自生地の情報を得られないでいました。 そんなとき、前日に別の場所で花散策をご一緒した方からお誘いを受け、案内していただいて初めて見ることができたのです。 ご厚意に感謝いたします。
図鑑には高さ5〜20cmになるとありますが、ここの株は小さめで、4〜6cmほどのかわいい株でした。 不思議な姿を初めて見ることができ、大感激でした。
和名は、一見オニノヤガラに似ているが、小型なことから「姫」がついたとされています(*1)。 しかし草丈が1mを超えることもあるオニノヤガラと、人の手の指程度のヒメノヤガラではあまりに大きさが違うので、ホントかいな?と思ってしまいます。 ちなみに「矢柄」とは矢の、やじりや矢羽根をつける棒状の部分です。
「各部の名称」などと言いながら3つの部位しか示せなくてスミマセン。 茎は直立し、毛はなく、鱗片葉(りんぺんよう)は、茎に貼り付くように互生します。 鱗片葉は長さ4〜10mmで、薄膜質、基部が鞘となり、やや鈍頭です(*2)。
花は5〜15個つけます(*1)。 写真#3では、見える範囲で9個つけていました。
花柄子房は花茎に沿って上方に伸び、花被片は直角に曲がります(花被片:萼片と花弁の総称)。
本種の送粉者は、よくわかっていないそうですが、よく結実するので自動自家受粉を行っている可能性もあるとのことです(*1)。 赤い円内にとても小さな昆虫がいます。 花の長さは2.5〜4.5mmですが、それより小さい感じです。 送粉者なのか、あるいは、たまたま訪れただけなのか?
本種は花柄子房をねじらせずに唇弁を上側につける、「ストレート・唇弁上側タイプ」で確定なのですが、花が終わってしぼんでしまい、「これが唇弁、これが背萼片、...」と示すことができません。 本ページのメインイベント的項目なのに、残念でございます。
唇弁が花の上側につくので矢印で示した部分が唇弁と思われますが、他の花被片と区別もできない状態なので想像するしかありません。 図鑑には「唇弁はT字形」とありますが(*1)、どこがT字なのかもわかりません。
図鑑に「唇弁は長さ6mm、下部は胞状にふくれる」とあります。 おそらく、矢印で示した部分が唇弁で間違いないでしょう。
苞は卵状長権円形または卵形で、長さ5-8mm(*2)。 花柄子房の形状に沿って貼り付くようになっていました。
次回はぜひとも見頃の時期に見てみたい!
< 引用・参考文献、及び外部サイト >
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http://www.bun-ichi.co.jp//tabid/57/pdid/978-4-8299-8117-7/catid/1/Default.aspx
文一総合出版 2015年5月1日 初版第1刷 p.47
http://www.bun-ichi.co.jp/
*2 日本の野生植物 草本 1 単子葉類
平凡社 1982年1月20日 初版第1刷 p.197
2019.11.11 掲載
多摩NTの住人 (火曜日, 24 12月 2019 08:51)
菌従属栄養植物は魅力いっぱいですね。オニノヤガラの小型版ですか。オニノヤガラは去年初めて見ましたが、ヒメノヤガラにもどこかで出会いたいものです。
Ken (火曜日, 24 12月 2019 20:17)
多摩NTの住人さん、こんばんは。菌従属栄養植物は、どれもちょっと変わった姿をしていますね。ヒメノヤガラはオニノヤガラと比べると自生地が限られ、なかなか出会えないように感じます。普通のラン科植物に見えるシュンランやキンランも、実は完全菌従属栄養植物への移行途中にある、部分菌従属栄養植物です。植物は奥が深いですね。