海岸に近い、日当りのよい草地に生えるランです。 初めて見ることができたこの場所も、その通りの場所でした。 南西方向に大きく開けた緩斜面の草地で、Sunsunと降り注ぐ陽光を浴びながら、他の植物に紛れるように群生していました。
ラン科の中では成長が早く、芝生などの人為環境にも適応し、遷移のはじめに裸地に侵入して定着する先駆(パイオニア)植物でもあるそうです。
本州の千葉県以南から沖縄県までと、伊豆諸島に分布します。 花期は4〜5月。
花期の茎の高さは、10〜40cm。 葉を1個つけます。 葉は細い円柱状で、とてもラン科の植物の葉とは見えない形状でした。 葉の長さは 15〜25cm、径2〜2.5mmで、茎の高さよりも、やや長かったです。
葉がすっと立って、茎頂より高くなっている個体もありましたし、だらんと曲がって垂れ下がるようになっている個体もありました。 どうもそれぞれの個体の生育段階と関係があるようです。 若い個体の葉は上に向かって元気に立ち、時期が過ぎてくると次第に垂れ下がり、先端部も傷んで茶色に変色してくるようでした。
さて、この葉がニラの葉に似ていることが、ニラバランの名の由来であると推測できるので、花より先に葉を見てみましょう。 まずは葉の基部を見てみます。
葉は根元から縦方向に強く巻き、円柱状になっていました。 左右の葉の縁が合わさった部分が、縦方向に筋のように伸びています。 基部は鞘(さや)状になり、茎を包むようになっています。 発芽期を見ていないので推測ですが、葉が茎を包むというより、縦に巻いた葉の合せ目から、茎が突き出してきた、という印象でした。
葉が巻いて合わさっった面は、基部では当然、茎の方を向いていますが、茎から離れるとすぐにねじれるようになり、茎と反対側を向くようです。 このことの確認も含め、次に葉の断面を見てみます。
中ほどから先がなくなってしまっている葉がありました。 傷んで折れたのか、なんらかの原因で取れてしまったのか不明ですが、断面は茶色く変色しています。 それはともかくとして、葉の断面はよく見えました。
葉は中空ですが、ネギのようなストロー状の筒ではなく、上で述べたように葉が縦方向に巻いて、円柱状になっていることがわかります。 そしてその合せ目は、左右の葉の縁が単に辺で接しているのではなく、接した面がやや内側に巻き込むようになっていました。
また合せ目は、下側(写真で手前側)を向いており、これは茎とは反対方向です。 これはおそらく、強度を保つためではないかと考えています。
さて、ニラバランの葉の様子は大体わかりましたが、名の由来になったと思われる、ニラの葉はどうなっていましっけ? ネットで調べようとした矢先、ハッと思いついて冷蔵庫に走りました。 あっ、あるじゃん、ニラ! おっ、ネギもある! さっそくこれらをナイフで切って、断面を観察することにしました。
「そこまでやらなくてもわかるでしょ?」という声が聞こえてきそうですが、まあ、撮影したので見てやって下さい。 ご覧のように、ニラの葉の断面は中空ではなく、しかも扁平です。 よって「ニラの葉に似ているからニラバラン」は、まったく当たっていないことになります。
中空である点で、まだネギの方が近い。 「ネギバラン」でもよかったのでは? しかしネギの葉も円柱状ではありますが、縦方向に合わせ目のない、ストロー状ですから、これも当たらないと言えるでしょう。 おそらく見た目の雰囲気だけで命名したのでしょうね。 もしそうだったとしても、責めたりするつもりはございません。
それでは、ニラバランの花を見ていきます。
茎の上部に、明るい緑色の花を15〜35個、やや密につけます。
花の径は約2.5mmと小さい。
花が小さく、1個の花を鮮明に撮影することができなかったので、#13の2個の花を使って各部を説明します。
① 苞:卵状披針形で、長さは2〜4mm。
② 花柄子房
③ 背萼片:幅が広い卵形で、長さは約2mm。
兜状で、側花弁とともに蕊柱を覆う。
④ 側萼片:狭長楕円形で、長さは背萼片より短く、花の下側でやや反り返る。
⑤ 側花弁:狭長楕円形で、長さは背萼片より短く、蕊柱の左右に位置する。
⑥ 唇弁:蕊柱の基部につき、下に垂れて、やや反り返る。
縁は全縁または2裂し、基部にしばしばイボ状突起がある。 距はない。
⑦ 蕊柱:高さは約1mmで、葯は広卵形で2室、楕円形の花粉塊が各1個ずつ入る。
うまく撮影できなかったのですが、ニラバランの葯は淡黄色でした(矢印部)。
ニラバラン属は、オーストラリアやニュージーランドを中心に多様化を遂げて、約10種があるそうです。 そのうちのごく限られた種だけが、アジアで分布を拡げているそうです。
この植物は、愛知県の花友さんに情報をご提供いただき、初めて見ることができました。 この場を借り、改めて御礼申し上げます。
< 引用・参考文献、及び外部サイト >
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*1 日本の野生植物 草本1 単子葉類
平凡社 1982年1月20日 初版第1刷 p.202
http://www.bun-ichi.co.jp//tabid/57/pdid/978-4-8299-8117-7/catid/1/Default.aspx
文一総合出版 2015年5月1日 初版第1刷 p.55
http://www.bun-ichi.co.jp/
*5 ウィキペディア
ニラバラン https://ja.wikipedia.org/wiki/ニラバラン
http://hanasakiyama.web.fc2.com/ran/sp/Nirabaran.htm
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2017.09.28 掲載
ニラバランが掲載されたページ
Dairy-Hiroダス