北信州の湿原でトンボソウに出会いました。 2009年7月に
群馬県の湿原で出会って以来です。 北海道から九州まで分布
し、さほど珍しい植物ではないと思うのですが、時期が合わな
かったのか、目が悪いのか、4年ぶりの再会です。 どちらの場
所も湿原で、地面はかなり湿っていて、日当たりは良い場所で
した。 そんな場所が好きなのでしょう。
名前や姿が似ているオオバノトンボソウ(ツレサギソウ属、
高さ約30cm)より大分小さいく、茎の高さは10〜20cmほど
でした。 花も小さく、径3〜4mmほどで、10〜20個ほど咲
かせます。
花が小さい上に淡緑色なので、どちらかと言えば
目立たない部類に入ります。 でもよ〜く見ると、
なかなか味わいのある花ですよ。 花はいろいろな
方向に向いて咲いていました。 花期は7〜8月。
似た花との識別ポイントも意識し、1枚の写真で一気に花の構造の説明を試みます。 上の写真にマウスでポインターを重ねると、各部の名称が表示されます(スマホはタップして下さい)。
背萼片は広楕円形で長さ約2mm、側花弁は狭卵形、背萼片と同じ長さで、背萼片とともにかぶと状になり、蕊柱を囲みます。 側萼片は狭長楕円形で斜め後方に反り返り、その縁も反り返り気味になります(後で別の写真でも示します)。
唇弁は長さ3.0〜3.5mmで、基部から3裂し、T字形です。 T字の左右の小さい裂片を側裂片、中央の大きな裂片を中裂片と呼びます。 側裂片は三角形で鈍頭、中裂片は舌状で幅広く、やや斜め前方に下垂し、反り返りません(註1)。 唇弁が基部から3裂するのがトンボソウ属の特徴で、よく似たツレサギソウ属の唇弁は全縁です(分裂しない)。(註2)
図鑑には「唇弁は白色」や「唇弁は黄緑色がかった白色」とありますが、ここで見た個体は唇弁が白っぽくは見えず、他の花被片と似たような色でした。 むしろ側花弁がやや白っぽく見える個体がいました。 ネットの中の写真を検索すると、確かに唇弁が白っぽい花が少なからずいます。 きっと地域差なのでしょう(ということで片付けちゃう!(^^;))。
苞は狭披針形で鋭頭、基部で花柄子房を下から支えるようになっています。 長さは花柄子房の半分〜同長で、花柄子房より長くはありません。
距は、これも図鑑に白色とありましたが、あまり白っぽくは見えず淡緑色でした。 花柄子房に沿うように緩やかに下方に曲がり、目立ちません。 長さは花柄子房とほぼ同長で、先端が茎の反対側に飛び出すことはありませんでした。
花柄子房には、明確に「ねじれ」が見えます。 トンボソウは花柄子房を180°ねじって唇弁を下側につける、「標準タイプ」のランです。
葯は紫褐色でした。 右側は側花弁に隠れて見えま
せん。 中央には丸い、距への入口の穴が見えます。
上から見ると、確かにちょっとトンボっぽいかな?
側萼片がちょっと変わっていました。 側萼片は
斜め後方に反り返るのですが、縁が強く反り返り、
「細長いお椀形」になっていました。
葉は茎の基部に2個あります。 狭長楕円形〜狭披針形で、
長さ8〜13cm、幅1〜3cmで、やや弓なりになります。茎の
上部には退化した鱗片葉があります。
註1:唇弁がもっと長く、反り返る個体を見ました。 トンボソウの奥の間に写真を掲載しました(2018.08.17)。
註2:トンボソウ属は広義のツレサギソウ属(Platanthera)に含まれるとする考えもあるようですが、調べても「広義のツレサギソウ属」の定義がわからなかったのと、愛用の図鑑に従いトンボソウ属としました。
2013.09.11 掲載
村田孝嗣 (月曜日, 17 8月 2015 04:25)
野生ランに出会っても、図鑑での検索に手こずっていたのですが、こんなに充実した頼りがいのあるホームページがあると知りませんでした。特に、平易な言葉と観察者としての視点で語られていること、形態をしっかり解説して下さっていることは、図鑑よりずっと信頼感があります。ちょくちょく利用させてもらいます。
HiroKenのKen (月曜日, 17 8月 2015 20:51)
村田さん、嬉しいコメントをありがとうございます。大変励みになります。
図鑑は写真も文も、その道を極めた方々が心血を注いで制作されているので、私たちの様なシロウトはとうてい足元にも及びません。ただ図鑑には「紙面の制約」という重い足かせがあるのも事実です。逆にこのようなホームページでは記事の割り当ての制約は無きに等しいです。図鑑をリスペクトしつつも、図鑑にはできない内容を充実させ、図鑑を補完できるような存在になれれば、植物に興味を持たれている方々のお役に立てると考えています。
今後もいつでも気軽に遊びに来てください。
土佐市のぽち (月曜日, 11 7月 2016 23:55)
先日四国カルストに行った時に、カキランの中にひっそりと咲いているトンボソウをみつけました。
とても小さくて、よく人に踏まれずに咲いたな~と、感動でした。
最近このHPをよく参考にさせていただいてます。細部にわたり詳しく掲載されているので、とてもわかりやすいです。
HiroKenのKen (火曜日, 12 7月 2016 01:43)
コメントをありがとうございます。
トンボソウ、四国カルストでも頑張って咲いているのですね!
「野山の花アルバム」の各ページでは、説明が写真のどの部分を述べているのかを、できるだけわかりやすくしようと努めています。
いつでもお気軽に遊びに来てください。