どっひゃあ〜、なんじゃこりゃあ〜! と、ツチアケビを見たことが
ない方が叫んでくれることを期待して、この写真をトップに持って来ま
した。 クリックするともっと大きくなるので、この不思議な姿をお楽
しみください。 良く言えば愛嬌たっぷり! 悪く言えばちょいブキミ。
でもずっと見たかった花。
この山域にいると、早くからウワサは聞いていましたが、幾度か探索
しても、どうしても見つけることができませんでした。 今回はいつも
と違う初めての場所を探し、偶然に近い形で発見、ようやくその姿を拝
むことができました。
しかし、どうもこのランは変です。 何かがおかしい...。 そう感じ
た理由は、後半で述べます。 まずは全体の姿や花のアップをご覧くだ
さい。
5つの株がありました。 菌従属栄養植物ですから
葉はありません。周りの緑の葉はすべて他の植物です。
幸運にも、とてもフレッシュな状態でした。 開花した花よりも
蕾の方が多い。 高さは50〜60cmほど。 条件がよいと、1mに
もなるそうです。 こんなのが1mにもなったら、さぞかし目立つ
ことでしょう。 この株も健康そうで、これからもう少し大きくな
りそうな気配でした。
彼らの後ろに、黒く背後霊のように立っているのは、ご先祖様
(昨年の株の名残り)です。
花茎や萼片は肌色っぽいような黄褐色というか、ちょいと表現の
難しい色をしています。 茎はやや赤みを帯びた茶褐色をしていま
した。 落葉樹林下やササの群落中に生えます。 葉緑素を持たな
い、菌従属栄養植物。 きのこのナラタケと共生するそうです(周
辺にナラタケの姿は見えませんでした)。
ツチアケビの花です。 萼片、側花弁の長さは1.5〜2.0cm。
萼片の外面には微毛が密生します。 唇弁は肉質で、萼片よ
り少し短く、縁は細かく分裂します。 内面は黄色く、とさ
か状の隆起線があります。
白っぽい棒状のものは蕊柱(ずいちゅう;雄しべと
雌しべが合着したもの)です。 先端の黄色い部分
は花粉塊です。
ところで多くのラン科の花は、花柄子房が180度ねじれて、唇弁が下側になってつきます。 「逆さまが普通」なのです。 でもどこの世界にも変わり者はいるもの。 たとえばトラキチランは、花柄がねじれない「ストレートタイプ」なので、唇弁が上側になっているのです。 花が逆さまなので、普通のランを見慣れた目にはとても奇妙に見えます(ページの下にリンクがありますぞ)。 またホザキイチヨウランも唇弁が上にあるので、一見してトラキチランと同じくストレートタイプか?と思えるのですが、なんとこのランは花柄子房が360度ねじれているのです(この花も下にリンクがありますぞ)。
.
さてさて上の写真ですが、唇弁が下側にあるので、普通多く見られるランと同じに見えます。 しかし実は、ツチアケビは花柄子房がねじれない、「ストレートタイプ」なのです! ストレートタイプは唇弁が上側にあるはずなのに、下側についている。 これはおかしいではないか!と疑問に思い他の花をよく観察すると、これはもうみんな好き勝手な方向に向いているのです。
下の写真では、花を正面から見たときの唇弁の回転方向の位置を書き込んでみました。
他の多くのラン科の花は、唇弁が下だろうと上だろうと、とにかくきっちり揃って咲いているものですが... ツチアケビは、そんなことはお構い無し、まったく自由奔放な向きに花をつけているのでした。 こんなランは見たことない! 初めて目にしたときの違和感は、この花のつき方のためだったとわかりました。でもこの自由奔放な性格は好きになりそうです。 ツチアケビは、「ストレート・唇弁位置無頓着タイプ」と勝手に命名します。
しかしこの花茎子房のねじれが無いことに関しては、所有している図鑑(*1)では一言も触れられていませんでした。 取るに足らないことなのでしょうか?
上の2枚の写真は、2008年に初めて見ることができた、ツチアケビの果実です。 花が花なら果実も果実。 奇妙さは徹底しています。 バナナのような果実は長さ6〜10cm、肉質の液果で下垂します。 この果実を見て以来、ずっと花を見たかったのですが、それが今回叶ったわけです。
和名の由来は、土に生えて果実がアケビ(つる性植物)に似ているからとのことですが、あまり似ているようには思えません。
(*1)参考文献
山渓ハンディ図鑑 「山に咲く花」 山と渓谷社
「日本の野生植物1」 平凡社
2012.07.04 掲載
2016.02.19 学名の属名はGaleola属としていたが、本種は液果であることから、
Cyrtosia属に変更した。
アナベル(アジサイの花です) (水曜日, 04 7月 2012 23:07)
何気なくみていましたら“ツチアケビ”が目に入りました。
以前、福島で売っているの見ました。旅館で食前酒として出しているところがあるそうです。早速、ナラタケの雑木林で採って果実酒のように漬けてみました。今の所、毎年、同じ場所に出てきています。参考になれば・・・。
中途半端@兵庫 (水曜日, 04 7月 2012 23:20)
アップで見ると猥褻な花に見えませんか?
そう思うのは中途半端だけかな・・・・・
一昨年すごく大きな株を見つけました。残念な事にその年の実は見に行けませんでした。
hanasanpo (水曜日, 04 7月 2012 23:29)
アナベルさん、こんばんは。
ページを公開直後にコメントを入れていただいたので、びっくりしました。
上にも書きましたが、昨年の株が残っていたので、腐生ランでも同じ場所に咲くことが多いのだとわかりました。
私たちは植物の採集はしないので果実酒を味わうことはできませんが、どんな味がするのかちょっと興味があります。
hanasanpo (水曜日, 04 7月 2012 23:33)
中途半端さん、コメントをありがとうございます。
う〜ん、確かに... でもラン科の花は、みんなアップで見るとそんな風にも見えるかも知れませんね。
掲載した果実の写真はとても暗い場所だったので、今回見つけた株の果実を明るい時間に見てみたいと思っています。時期は来月半ば位かな? うまく撮影できたら、写真を追加したいと思います。
BOGGY (金曜日, 06 7月 2012 15:08)
初めてみました。
蕾の状態だけはアケビに似ているような気がしますが・・・
果実もアケビに似ているせいですかね。
これもランなのですか・・先日ショウキランをみましたが、これもラン?
と思った位なので、これも驚きです。乱科?ですね。
hanasanpo (金曜日, 06 7月 2012 22:07)
乱科!? なるほど~!(^^)
葉緑素を持たない腐生ランから、木や岩にくっつく着生ランまで、ラン科はバラエティに富んでいますからね〜
まさしく乱科ですね! 本当に興味が尽きません。
牧野 (火曜日, 06 8月 2013 07:26)
昨日サンタさんと、鳥形山へ。発破をかけるので、一時間待ってくれアララ!
凄いものです、地震のような揺れ。通行止め解除を待って、目的地まで。
どうも目的地が良く理解出来ず。群生してる筈の、ツチアケビ、2本しか見つかりませんでしたが贅沢は申せません。見るにはみたのですから。
私等と違って、貴君の勉学態度には頭が下がります。
植物を大切にしましょう。の看板が目立ちます。山一つ吹き飛ばしながら言う事か?守株矛盾を感じましたが、それで生活している人々も大勢います。
hanasanpo (水曜日, 07 8月 2013 23:37)
牧野さん
発破をかけているとはキケンな山域?ですね。でもツチアケビに出会えてよかったですね。
昔、野反湖の自然観察の師匠がおっしゃっていました。「砂防ダムが必要もなさそうなところに作られることがあるが、村としては地元の土建業者に仕事を割り振ることも必要なんだよ。自然環境の保全も大事だけど、人間が生きていくことも重要なのさ」
自然環境に考慮しつつも、それを利用させていただかなければ人間も立ち行かない。最もだよな〜と思いました。簡単に白だ黒だと言える問題ではありませんね。
牧野 (水曜日, 28 8月 2013 20:26)
今夏は異常な高温と少雨が一昨日まで続き、一昨日やっと雨に恵まれ、昨日はそれいけとばかり、横倉山へ、ウスキキヌガサダケ、コウロギランを見に出かけました。キヌガサダケは駄目。コウロギランも成長悪く、花のさいているのは、ほんのわずかでした。収穫はツチアケビの赤い実。ヒメノヤガラ、マヤラン、ハダカホウズキぐらいでした、山が死にはしないかと心配してます。
hanasanpo (水曜日, 28 8月 2013 22:12)
今年の暑さは異常で、花が非常に早く咲き出したり、咲いたと思ったらすぐなくなってしまったりと、夏バテや熱中症は人間だけではないようですね!
コオロギランは未見の花で、いつかお目にかかりたいです。マヤランは、秋咲きの方でしょうか?
牧野 (日曜日, 01 9月 2013 06:31)
お返事遅くなりました。小生は疎いもので、牧野植物園の先生に、ご質問の件お尋ねしたところ。春咲き、秋咲きは考えられない。年に一度咲くランではないでしょうか。とのお返事でした。ウスキキヌガサダケはキヌガサが黄色のものとオレンジのものがあって、違う種類のものかと。調べられたそうですが、同じものだそうです。いまはまだ花ですが秋にはゆで上がりのタコのようになるタコグサも教えていただきました。科が難しくユキノシタ科かもう違う科の名前もでています。コウロギランは横倉だけにあるものにあらず。です。
hanasanpo (日曜日, 01 9月 2013 09:16)
わざわざ詳しい方にお尋ねいただき、どうもありがとうございます。ただ、実際に自宅近くのマヤランは7月中旬と9月中旬の2度、同じような場所に咲きます。それぞれ花期は2週間ほどです。毎年のことなので間違いないのですが、同じ株ではないかも知れません。
確かに年に2度咲くランは他に聞いたことがありません。今思いついた勝手な推測ですが、もしかするとマヤランには外見はまったく区別がつかないが、盛夏と秋に咲く2種類が存在するのかも? また「ランの不思議」が一つ増えましたが、観察ネタが増えて嬉しいです。今後は夏と秋で株が違うのか?、本当に外見は同じなのか?に注目して観察していきたいと思います。
ウスキキヌガサダケやタコグサの情報もありがとうございました。
牧野 (日曜日, 01 9月 2013 15:28)
ごめんなさい、タコグサはタコノ足の間違いです。タコノアシと全部カタカナ表示を何故しないかと言えば。タコノ葦と混同するからだそうです。と言うことはタコノ葦と言う植物も存在するわけです。植物の世界はたいへん難しいものですね。花を見た感じではワタナベソウに似ていますので、雪の下科と思ったのですが、学術的にはベンケイソウ科、両科で決着がついてないそうです。
平野 (日曜日, 03 8月 2014 22:11)
本日山でキノコを探して居る時山に目の前に気持ち悪い程の赤い植物を目にしました。友達が図鑑を調べてくれて土あけびと知りビックリです。山菜キノコ狩りは何十年としてるのですが初めての姿に驚きです。結構多いのでしょうか?
hanasanpo (月曜日, 04 8月 2014 01:29)
特別珍しいとは言えないものの、簡単に見つかる植物でもないと思います。私たちも一地域の数箇所でしか見たことがありません。一度見つかると目が慣れるのか、次々に見つかったりします。
ゆき (水曜日, 28 10月 2015 14:37)
こんにちは、HIROさん、kenさん、ツチアケビの花、鮮やかですね、ひとつひとつのお花、セッコクの花みたいに、まん丸な雰囲気で、愛らしい、千葉の山でも、偶然、見たことも、ありますが、お花が、種に、なった状態でした。多種多様ならん科植物のなかでも、異彩な腐生らんの仲間ですね。綺麗な写真いつも、ありがとうございます。
HiroKenのKen (水曜日, 28 10月 2015 20:53)
ゆきさん、いつもご覧いただき、ありがとうございます。
植物は光合成をするために光が必要なことは常識ですが、腐生ランは光合成を止めてしまった珍しい植物ですね。葉がないばかりではなく、その姿も独特なものが多いです。通常の植物とはまったく違った生き方を選んだので、姿・形も変わったものが多いのかも知れませんね。見ていて飽きません。
ゆき (木曜日, 29 10月 2015 19:44)
こんばんは、HIROさん、kenさん、ありがとうございます、ツチアケビの貴重なタイミングの写真ありがとうございます、何度も、みてしまいました、洋らんのデンドロさんにも、見えて、ツチアケビ、不思議なお花ですね。自生地域の環境やお花の詳細も、じっくり読みました、ならたけの菌床は、休眠してる、間に、ツチアケビ開花して、共生、秋には、茸も、みれるのでしょうね。後世に、大切に、残したい、貴重なお花ですね。
HiroKenのKen (木曜日, 29 10月 2015 22:53)
ゆきさん、こんばんは。何度も見ていただき、ありがとうございます。大変励みになります。ページを作った甲斐がありました。これからも見て楽しい、読んで役に立つページを心がけますので、応援よろしくお願いいたします。
Samidani Kiku (金曜日, 19 2月 2016 11:39)
素敵な写真、視点、感心しました。
ご存じだろうと思いましたが、蛇足、カラム、が属名を意味しているのですが。唇弁とのかかわり、があるような、、、。
Etymology: Cyrtosia
From the Greek kyrtos, curved, in reference to the prominently curved column. (KC).
Terrestrial, achlorophyllous, mycoheterotrophic, erect herbs. Roots thick and fleshy, arising from a short rhizome. Aerial stems to 2.5 tall, orange, brown or reddish in colour, simple or branched, papillose. Leaves reduced to scale-like bracts distributed along the stem. Inflorescence a terminal raceme. Flowers many, resupinate or non-resupinate, not opening fully in some species, typically yellow, pale green, whitish or light brown in colour, fleshy. Sepals papillose externally, oblong, fleshy. Petals glabrous, thinner and slightly shorter than the sepals, ciliate in some species. Labellum spurless, semi-round or weakly trilobed in shape, concave, with margins adnate to the base of the column, a thickened disk, and typically covered in muticellular hairs. In some species, a glabrous depression is present beneath the column, and the lateral lobes may be hairy and reddish purple in colour. Column prominently curved, with lateral toothed wings, and glandular projections at the base in some species; anther hyperincumbent, papillate, with two locules; pollen forming two oblong, mealy pollinia without caudicles. Ovary slender, unilocular. Fruit a cylindrical, fleshy berry, typically shiny and red. (KC).
HiroKenのKen (金曜日, 19 2月 2016 23:56)
Samidani Kikuさん、詳細な情報をありがとうございます。
属名はGaleola属としていましたが、ツチアケビは液果であるので、Cyrtosia属に含めるのが適当なのですね。早速、修正しました。
晴美 (水曜日, 19 7月 2017 16:07)
今日三重経が峰で初めて見ました。
なんともいえず、不思議な物を見てしまった!って感じです
Ken (金曜日, 21 7月 2017 01:06)
この花を初めて見た方は、大抵その姿に驚かれるようです。次回はぜひ果実を見て、驚いて下さい!(^^)
ユウレイタケ (土曜日, 16 3月 2019 12:41)
うちの山にもあるそうで、ツチアケビで調べていてこちらのサイトにたどり着きました。
とても詳しく書かれていて勉強になりました。
植物のこと、無知ですが詳しくなりたいと思っています。
HiroKen (土曜日, 16 3月 2019 16:40)
ご訪問をありがとうございます。6月下旬くらいになりましたら、ぜひお山でこの変わった花を探してみて下さい。