タカネサギソウ
高嶺鷺草 ラン科 ツレサギソウ属
Platanthera mandarinorum Rchb.f. subsp. maximowicziana (Schltr.) K.Inoue var. maximowicziana (Schltr.) Ohwi
本州中北部・北海道の亜高山帯〜高山帯の草地や岩場に生える多年草です。 茎の高さは10〜15cm、花期は7〜8月。 所有する図鑑(*1)には「高山帯の多雪地の湿原に生える」と解説されていますが、私たちが見ることができたのは亜高山帯といえる標高の2箇所で、1箇所は稜線に近い岩場で乾燥しているように見え、もう1箇所は草地でやや湿った場所でした。
写真#1は稜線近くの岩場に咲いていたものです。 周辺にも様々な植物が生えていましたが、密度はややまばらでした。 どちらの場所も冬場に行ったことはありませんが、遠くない場所にスキー場があるので、積雪も多いのかも知れません。
ツレサギソウ属に分類されます。 和名を漢字で書くと「高嶺鷺草」ですが、「標高が高い場所に咲くサギソウ」ではありません。 ミズトンボ属に分類されるサギソウとは、外見も大きく異なります。 同じ属のオオヤマサギソウ、ツレサギソウ、ヤマサギソウなどとは、似通った点が見受けられます。
葉は写真#1でわかるように茎の一番下の葉が上部の葉より目立って大きく、その長さは3〜4 cm、幅は2cm。 葉身は長楕円形、先端は鈍頭で、基部は茎を抱きます(*1)。 図鑑には「鱗片葉は披針形で上方のものほど小さくなる」とありますが、鱗片葉というより茎葉と表現した方がよさそうです。 一番下の茎葉以外は、先端がやや尖ります。
写真#2も稜線沿いの日当たりのよい岩場に咲いていた株です。 茎の基部付近の大きな葉は見えません。 花は黄緑色で、5〜10個を穂状につけます。 この株は8個つけていました。 側花弁はバンザイ型で、苞とともに花序からつんつん突き出している印象です。 茎はやや角ばっており、目立ちませんが稜のようなものが見えました。
「岩場」と言ってもそれを聞いて想像する環境は人により様々だと思うので、少し引いた画像を写真#3に示しました。 中央付近にタカネサギソウが3株、花を咲かせています。
実はこの花は前年にも探しに来たのですが、時期が早すぎて花を見ることができませんでした。 今回は訪れる時期を少し遅くし、見頃の状態の花を鑑賞することができました。
写真#5は花を正面 − というより正面やや斜め上から見たものです。 背等片は卵形で長さは約5mm。 側花弁は長卵形で、背導片よりすこし長い。 斜め上に突き出すようになっており、筆者はこれを「バンザイ型」と呼んでいます。 ちなみに思いつくところでは、ツレサギソウ属ではヤマサギソウやキソチドリがバンザイ型です。
側萼片は披針形ですが、後方に反り返るので、#4ではよく見えません。 次の#6でお確かめください。 唇弁は舌状、先端に向かい細くなる三角状で、長さは8mm、幅は4mmです。 真横から見るとわずかに「く」の字のように屈曲しています。
矢印を振っていませんが、花の中央部には棍棒状の2個の花粉塊が見えます。
写真#6は花を側面やや上方から見たものです。 背萼片が卵形であることよくわかります。 また正面からは見えにくかった、反り返った2個の側萼片が見えます。 図鑑には「側萼片は背専片と同長」とありますが、背萼片よりやや長く見えました。
側花弁が細長く突き出している様子がわかります。 中央の花の唇弁は、この角度では見えません。
花柄子房は180度ねじれていることが明確にわかります。 本種は花柄子房を180度ねじらせて唇弁を下側に配置する、「標準タイプ」のランです。
苞は、図鑑には「花より長くて目立つ」とありますが、花より明確に長いのは茎の下部の花であり、上部になるにつれ相対的に苞の長さは短くなり、花と同長〜花より短く見えました(ここでは 花の長さ=花柄子房+背萼片 の長さ)。
距は花の後方に突き出しやや下垂します。 長さは10〜14mmで、背萼片の2〜3倍の長さということになります。 距の先端付近には蜜が溜められています。 蜜の中には、泡のようなものが見えました。
写真#7は、#1〜#6と同日に撮影したものです。 こちらはやや湿った草地に咲いていました。 まとまって生えていて、少なくとも7本の茎が見えます。 周辺にはシャジクソウを始め、多くの種類の植物が密生していました。 ある程度環境への適応能力が高いのかも知れませんが、だからといって数が多いわけでもありません。
画質がよくないですが、茎の下部を拡大した写真#8を載せておきます。
< 引用・参考文献、及び外部サイト >
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*1 日本の野生植物 草本 1 単子葉類
平凡社 1982年1月20日 初版第1刷 p.197
2019.11.11 掲載