山野の常緑林に生える多年草。 茎は匍匐したあと直立し、高さは約20cmです。 葉は卵形で、縁は波打ち、やや光沢があります。 総状の花序に、2〜20個ほどの花をつけます(*1,*3)。 #1の株では、約14花つけていました(蕾も含む)。
暖温帯〜亜熱帯の常緑広葉樹林の林床や縁に生えます。 分布域は、従来は四国(高知県)以南の九州南部・屋久島・南西諸島に分布するとされていました(*2)。 しかし近年、高山や三浦半島、房総半島など関東地方で、次々に発見されているそうです(*1)。 伊豆諸島にも頒布します(*6)。 タシロランのように、温暖化の影響で分布が北上している可能性が指摘されています(*1)。 花期は8〜9月です。
2015年に訪れたときは時期が早すぎ、開花した花を見ることができませんでした。 今回はその経験から慎重に時期を検討し、ようやく見ることができました。 感激でした。初めてのランに出会えたときは、本当に嬉しいものです。
和名に含まれる「カゲロウ」は、気象現象の「陽炎(かげろう)」ではなく、昆虫の「蜉蝣(かげろう)」に由来するようですが、その理由はよくわかっていないようです(*4)。
ややこしいですが、昆虫の「蜉蝣」の名の由来は、「陽炎」であるようです。 飛ぶ様子からとも、成虫の命のはかなさからとも言われるが、こちらも真の理由は定かでないそうです(*5)。
この植物が分類される属ですが、以前はヒメノヤガラ属( Hetaeria )に含められていました(*2)。 しかし、所有する最新の図鑑(*1)ではキヌラン属( Zeuxine)となっていたので、これに従いました。
ここで少し疑問に思うことがあります。 とてもよく似た植物にヤクシマアカシュスランがあるのですが、こちらはヒメノヤガラ属になっています。 筆者のようなシロウトは、「こんなに似ているのに、違う属なの?」と思ってしまいます。 いろいろ調べたら、ヒメノヤガラ属に含める考え方もあるようです(*4)。
花は小さく、可愛い形をしています。 花はほぼ横向きにつきますが、斜めに傾いている花が多かったです。 花茎には、まばらに白毛が生えています。
Hiroは花を遊園地の飛行機の乗り物にたとえ、大変気に入ったようでした。 それでは、花の詳細を見ていきます。
花を見つけたときは、きっと#5のように、上から見下ろす形で見ることになると思います(地面に這いつくばって探していない限り)。 そうすると、まず目につくのは、やや赤みが強い背萼片ではないでしょうか。 長卵形で先端が尖るよいうになった背萼片が、兜状に花にかぶさるようになっています。
背萼片を横から見ると、基部では花の横方向まで覆い、先端に向かって斜めに切れ込んで幅が細くなっていることがわかります。
唇弁は嚢状(のうじょう)で白色、基部にかけてわずかに黄色味を帯びます。 先端部は注ぎ口のようなV字型に凹みます。 図鑑(*2)では「唇弁内の突起はかぎ状」との解説がありましたが、そこまでは見えませんでした。 写真では唇弁の先端部と基部を矢印で示しています。
2個ある側花弁は、向かって左側のみ図示しています。 側花弁は白色で、上部で左右の側花弁が接し、なおかつ、背萼片とも密着しています。 これはあくまでも筆者の私見ですが、側花弁と背萼片の間に隙間が認められる花は一つもなかったので、側萼片と背萼片は、密着ではなく「合着」している可能性があります(組織的に分離できず、融合している)。 そのようなランは、他にもシュスラン属などで見られます。
側夢片も片側だけ図示しました。 緑褐色をしており、形状は披針形、左右に開き、長さは約5mmで、縁は内側に巻きます。
写真#7の説明で「側萼片の縁は内側に巻く」と書きました。 その様子は写真#8がよくわかると思います。 側萼片の縁が内側に巻くのは、開花した後で巻くのではなく、蕾の状態で唇弁を包み込むように縁が巻いていた側萼片が、そのままの形状で左右に開いたものと思われます。
下から見上げてみたら、側萼片が光に透けて美しい。 唇弁はなめらかな卵形の壺型に見えます。 その他、写真#9からは以下のことがわかりました。
① 側花弁は、先端部で左右が接している。
② 背萼片も一部、光に透けて見える。 これは、側花弁は先端部分のみで左右が接し
ていることを示している(背萼片の内側全体に側花弁があるのではない)。
③ 側花弁と唇弁の間には隙間があり、互いに接していない。
写真#11は、様々な方向に花が向いており、その結果いろいろな角度で花を見ることができることと、苞の説明のために掲載しました。 矢印で示した部分が、苞です。 苞の長さは、花柄子房と同長か、やや短い。 苞の形状は、基部から中ほどまでは長卵形で、先は急に細まり、とがります。 それにしても、見れば見るほど可愛い花です。
HiroKenはランの花を観察するとき、花柄子房の「ねじれ」に注目します。 花柄子房とは、花柄と子房の境界が不明瞭である種に用いる用語です(ラン科植物の中には、花柄と子房が明瞭に識別できる種もあります)。
多くのラン科植物は、花柄子房を180度ねじれらせて、唇弁を下側に配置します。しかし中には、ねじらせずに唇弁が上側になった種もあります(トラキチラン、ヒメムヨウランなど)。 なぜ花柄子房をねじらせたり、ねじらせなかったりするのか?なぜ唇弁を下側につけたり、上側につけたりするのか? そんなことに、とても興味があるのです。
脱線しかけましたが、本種ではどうでしょうか? 写真#12で矢印で示した部分が、花柄子房です。 「ねじれ」は... ありますね。 唇弁は下側... と言ってもよさそうです。 ねじれが中途半端で、花が斜めになっていることが多く、少しイレギュラーな感じは否めませんが、花柄子房が180度ねじれて唇弁が下側につく「標準タイプ」に含まれることは間違いなさそうです。
花柄子房のねじれと唇弁位置によるタイプ分類についてご興味がある方は、サカネランのページのこの項目をご参照下さい。
葉は長さ3〜5cm、4〜5枚つけ、卵状楕円形、表面は濃緑色で光沢があり、緑が波打ちます(*1)。 上の写真の株では、大きめの葉が3枚と、かなり小さい葉が1枚ついています。 葉脈はあまり目立ちません。 また班などもありませんでした。 この写真で見る限り、葉柄は無いように見えます(次の写真で詳しく見ます)。
葉より下の部分は匍匐してから立ち上がった茎で、茶褐色をしています。 毛はなく、表面に膜質のものがついていました。 葉より上の部分は花茎で、明るい緑色をしており、まばらに白毛が生えていました。
写真#14は、葉の基部を横から観察してものです。 葉の基部は、茎を抱いており、葉柄は認められません。 「カゲロウランの葉に葉柄はない」と言ってしまってよいと思います。 花がよく似たヤクシマアカシュスランには、長さ2~3cmの赤みを帯びた、明瞭な葉柄があるそうなので(*4)、この点で明確に識別できそうです。 この地に生きるカゲロウが、いつまでも健全に生育してほしいと願わずにはいられません。 まだ見ぬヤクシマアカシュスランにも、いつか出会ってみたいものです!
< 引用・参考文献、及び外部サイト >
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http://www.bun-ichi.co.jp//tabid/57/pdid/978-4-8299-8117-7/catid/1/Default.aspx
文一総合出版 2015年5月1日 初版第1刷 p.52
http://www.bun-ichi.co.jp/
*2 日本の野生植物 草本 1 単子葉類
平凡社 1982年1月20日 初版第1刷 p.211
山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.109
http://hanasakiyama.web.fc2.com/ran/sp/Kagerouran.htm
*5 ウィキペディア
*6 ヤクシマアカシュスラン, カゲロウラン八丈島に産す
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunruichiri/48/2/48_KJ00001077514/_article/-char/ja
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2019.08.26 掲載
カゲロウランが掲載されたページ
Dairy-Hiroダス