常緑性の多年草です。 茎は横に這い、先端は直立して25〜40cmになり、ミヤマウズラより大型です(*1)。 ミヤマウズラとシュスランの自然交雑種と推定されています(*2、*3)。 分布域は本州中部です。 関東地方南部~三重県に点在しているらしいといわれますが、はっきりしません(*1)。
Y-List(*4)にも学名が載っていたため、引用させていただきました。 Y-Listのデータ編集日は、2019.02.19となっています。 この原稿を書いている2019年10月現在から8ヵ月前のことです。
現時点でネット上でこの植物を取り上げた個人のホームページはさほど多くないですが、その中の複数のホームページで、概ね以下の記載がありました。
・日本植物分類学会第7回大会(2008年)で、芹沢俊介愛知大学特別教授によって
新種「オオミヤマウズラ」として発表された。
・新種としての記載はされていない。 このため学名は Goodyera sp. とした。
論文は2010年に発表されていますが、Y-Listに掲載されるまで9年を経ています。なぜこんなに時間がかかったのか、また芹沢教授が発表されたのに、記載論文はなぜ韓国発のものなのか、わかりません。 ご存知の方はぜひご教示下さい。
高さを測定してみました。 短いスケールしか持っていなかったのでいい加減な測定ですが、スケールが写り込んでいるのでその縮尺から概算を計算したところ、右の株の高さは約21cmでした。 高さ25〜40cmあるとされるオオミヤマウズラとしては小型で、高さ12〜25cmのミヤマウズラと同等サイズの株でした。
葉は直立部の基部 に数個が互生し、長さ 0.5~1.2cmの柄があります。 葉身は長卵形~楕円形、大きいもので長さ4~6.5cm、 幅 2~2.5cmです。 先端は鋭頭で、表面は全体緑色のことが多いですが、白斑が入ることもあります(*1)。 この株は白斑がありませんでした。 葉柄の基部は葉鞘となって茎を包みます(*1)。
葉の色は、シュスランよりやや明るめの緑色に見えました。 主脈に白線が入っており、これは母種のシュスランの特徴が出ているのかも知れません。 光の加減で手前の葉では目立ちませんが、奥の横向きの葉には、わずかにミヤマウズラの白斑に似た網目模様が見えます。
葉は艶があるように見えますが、雨天の中で撮影したので、全体が濡れています。
乾燥した状態は見ていないので、葉の艶については、なんともいえません。
残念ながら見頃の時期は過ぎており、やや元気がない状態です。 子房も膨らみ始めています。 花は茎の上部に0.7~2cmの間隔で、8~14個つきます(*1)。 写真#5の左の株では花は4〜5個、右の株では6〜7個で、やや少なかったです。
花は一方に偏って、ほぼ横向きに咲いていました。 偏っているといっても、ある程度は向きがばらけており、およそ30度ほどの角度内に収まっているように見えました。 無理やり母種と関連付ける気はありませんが、ほぼ同じ方向に花を向けるミヤマウズラ(≒0度)と、60〜90度ほどの範囲で咲くシュスランの、中間的な花の向きといえるかも知れません。
花は白色で、側萼片はミヤマウズラのように平開しません。 開き具合は半開というよりシュスランより控えめに見えるほどでした。 花被片(背萼片・側花弁・側萼片)は長さは10~13mmで(*1)、10mmほどのミヤマウズラ、6〜8mmのシュスランよりやや大きい。 苞は広披針形で長さ6~17mmです(*1)。
背萼片と側萼片の外面には、腺毛のような毛が密生していました(花茎や花柄子房にも同様に毛が生えています)。 側花弁の先端部内面には、淡緑色で円形に近い斑紋が見えます。 側花弁は左右一つづつあるので、斑紋も2個あります。 唇弁先端付近の内面にも、側花弁と似た色の斑紋がありました。
このような斑紋は母種のミヤマウズラの花にもありますが、ミヤマウズラの斑紋は淡褐色です。 では斑紋の色でミヤマウズラと識別できるでしょうか? 答えは「否」
です。 次の写真をご覧ください。
開花間もないフレッシュな花では斑紋は淡緑色でしたが、古くなるにつれ、色が変化することがあるようです。 写真#8の花では斑紋が赤色を帯び、淡褐色になってきます。 この色はミヤマウズラの斑紋の色と似ているので、斑紋の色だけ見て両種を識別することはできません。 このことに気づき、指摘しているサイトもありました(*5)。
写真#8を使い、各部の名称を確認します。 ①背萼片 ②側花弁 ③側萼片 ④唇弁 です。 ①背萼片と②側花弁は、シュスラン属においては密着(もしくは合着)し、兜状になり蕊柱を覆うようになってています。 側花弁は透明感がありました。 背萼片と側萼片の外面には、線毛状の毛が密生していました。
写真#9はオオミヤマウズラの花の側面です。 ①背萼片 ②側花弁 ③側萼片 ④唇弁 ⑤花柄子房 ⑥苞 となります。
前項でも書いたとおり、①背萼片と②側花弁は密着(もしくは合着)しています。 両花被片の境界部がうっすらと見えると思います。 また側花弁先端部内面にある斑紋が、外面からもわずかに透けて見えます。 ④唇弁は先端部のみ見えます。
⑤花柄子房は、膨らみ始めているように見えます。 ⑥苞は、花柄子房と重なって写ってしまっているので見えにくいですが、広披針形で長さ6~17mmです。
さて、オオミヤマウズラはミヤマウズラとシュスランの自然交雑種であることが強く示唆される(*2)ということなので、改めて母種と並べて比較してみました。 下の3列の写真は、左からミヤマウズラ、シュスラン、オオミヤマウズラです。
どう感じられましたでしょうか? 全体の姿は、母種と似ていると言えそうです。花の向きに着目すると、どれも一方後に偏って花をつけるものの、ミヤマウズラはほぼ同一方向に、シュスランは60〜90度ほどの角度内に、そしてオオミヤマウズラは
30度ほどの角度内に花が向くので、母種の中間的な特徴に思えます。 遺伝については詳しくないので、こういった見方が正しいのかはわかりません。
花については、母種のどちらの特徴が強く発現しているのかわかりませんが、花全体の形状はシュスランに近いように思えます。
葉は形状が両母種に似ていますが、主脈に白線が入り、かすかに網目模様が入ることから、これもシュスランの特徴がより強く発現しているように思えました。
今回見ることができたオオミヤマウズラは草丈も低く、花数も少なく、見頃の時期も過ぎてしまっており、オオミヤマウズラの標準的な姿とは言い難いものがあります。 参考程度に留めていただけたらと思います。 今後、より元気な個体に出会えたら、このページを更新するか、「奥の間」を作って紹介していきたいと思います。
< 参考・引用させていただいた文献・図鑑や外部サイト(順不同・敬称略) >
文献・図鑑などの著作物や、個人・法人のWEBサイトには著作権があることをご理解の上、ご利用下さい。
*2 Korean Journal of plant Taxonomy, 40(4): 251-254.
論文が見つからない場合、こちらからもPDFデータをダウンロード可能です。
*3 神奈川県植物誌調査会
神奈川県植物誌2018 電子版』(初版 2018/11/7公開) p.336
注意:上記PDFファイルは、データサイズが122MB以上あります。
*4 植物和名ー学名インデックス YList オオミヤマウズラ
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最終閲覧日:2019.10.05
2019.10.10 掲載
オオミヤマウズラが掲載されたページ
Dairy-Hiroダス
薫る風 (土曜日, 26 10月 2019 18:49)
ご無沙汰しております!
オオミヤマウズラというものが存在しているんですね。
初めて認識しました。
ありがとうございました。
Ken (土曜日, 26 10月 2019 20:32)
薫る風さん、お久しぶりです。ご訪問ありがとうございます。私たちもオオミヤマウズラの存在を知ったのは比較的近年のことです。