山地の湿った岩壁に生え、淡い紅紫色の美しい花を咲かせます。 まれに人家の屋根などに生えることもあるそうです(*2,*4)。 この自生地も沢沿いの垂直に近い岩壁でした。 開花時の茎の高さは10〜30cm(*1)。 本州の東海地方以西、四国、九州に分布します(*2)。 花期は6〜8月(*2,*4)。
葉は線形または広線形で、長さは7〜12cm、幅は3〜8mm、まばらに2〜4枚つけます。 花序あたり数個〜20個の花を密につけます(*1)。 #1の花はやや時期を過ぎてしまっていました。
インターネットで「ウチョウラン」を検索すると、検索結果として、まずウチョウランの「育て方」「栽培」「販売」「オークション」といったページが山ほど出てきます。 植物としてのウチョウランについて述べることを目的としたページは、なかなか出てきません。 これはラン栽培のチャンピョン(?)ともいえるエビネと同様、いかに本種が園芸栽培の対象とされているかを表しています。
花が美しく、花の色や形、大きさ、花被片の模様などに変異が大きくバラエティーに富みます。 また人工交配により新たな品種を生み出しやすいなどの理由で、乱獲され続け、激減しました。 簡単に手が届くものはことごとく盗掘され、危険な崖に生えるものさえ、ロープを使って下りて盗られたそうです。 足を踏み外し、盗った株を握りしめたまま崖下に転落、などという事故が何件も起きたそうです(*1,*3,他)。
最近はランブームはおさまり、種子の無菌培養による増殖技術の確立により、「山採り」と称される盗掘は減少しているということですが(*3)、それでも自生種が絶えず盗掘の危険にさらされているのは間違いないようです。
今や自生種は、近づくことが非常に困難な場所、監視の厳しい場所や、崖の崩落防止の金網の中でしか、ほとんど見ることができないのが現状です。 写真#1と#2は、はるか遠方の花を900ミリ相当のレンズで撮影し、さらに大幅にトリミングしたものです。
このような悲しい現状の中、比較的近づいて花を見られる幸運に恵まれました。
写真#3と#4の株はほんの1メートルほど離れていましたが、#4の花には花弁に斑紋がなく、のっぺり系美人でした。 同所に咲く花でさえこれだけ違うので、本当に変異に富んだ花なのだと思いました。 まれに白花もあるそうです。
フレッシュな花をこれだけ近くで見ることができて、嬉しかったです。 花は形まで洗練された感じで美しい。
花のてっぺんの背萼片は卵円形で長さは6mmほど、側花弁とともに兜状になります。 側萼片は斜卵形(歪んだ卵形)で、斜め上に伸び(*1)、まるで両腕を上げているようです。 唇弁は長さ8〜10mmで、3深裂します(*1)。 唇弁の基部にはふつう濃紅紫色の斑紋がありますが(*3)、上の写真の花ではありませんでした。 また図鑑によっては、中裂片の先端がわずかに2裂する(*2)とありましたが、この花ではそのように見えませんでした。
#6はウチョウランの花の側面です。 背萼片が兜状になっている様子がよくわかります。 完全に真横からの撮影ではないのでやや見えにくいですが、唇弁の距は長さ1〜1.5cmでやや前方に湾曲します。 苞は狭披針形で、長さは7〜12mm(*4)。
今回撮影した中では、つぼみの部分で花柄子房を確認することができました。 花柄子房には暗紫色の縦の条があり、ねじれの状態がわかりやすい。 花柄子房にはねじれがありました(矢印部)。 ウチョウランは、花柄子房を180度ねじらせて唇弁を下側につける、「標準タイプ」のランです。
本種は種内変異に富み、佐賀県のクロカミラン(P. graminifolia Rchb.f. var. kurokamiana (Ohwi et Hatus.) )や千葉県のアワチドリ(P. graminifolia Rchb.f. var. suzukiana (Ohwi) Soó) などが知られています。 いつか、これらの花も見てみたいものです。
< 引用・参考文献、及び外部サイト >
文一総合出版 2015年5月1日 初版第1刷 p.37
山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.130
*3 レッドデータプランツ 山と渓谷社 2003年12月15日 初版台刷 p.447
*4 日本の野生植物 草本 1 単子葉類 平凡社 1982年1月20日 初版第1刷 p.191
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2018.05.18 掲載