なかなか縁がなかったミズタビラコにようやく出逢うことが
できた! と思ってトップページに速報まで出したのですが、
丸三日かけて調べた結果、ミズタビラコではなく、その変種の
コシジタビラコであるとの結論になりました。コシジタビラコ
に訂正させていただきます。
どちらであったとしても、見ることができて嬉しいです。
クマも生息する深山の湿原。小さな清流ほとりに、ひっそりと
咲いていました。 眺めていると、気持ちが和みます。
花は花穂の先端部しか残ってなく、間もなく終わりである
と思われますが、なんとか間に合いました。
薄い青色の花冠の直径は2.5〜3.0mm程度で、花がそっくりな
キュウリグサよりやや大きいです。 副花冠(中央部のぷっくり
した部分)は白色で、黄色であるキュウリグサとは異なります。
茎頂から1本あるいは2本の花穂が出ます。 蕾のころは
花穂は丸まっていて、花が花穂の基部から順に咲き出すと
ともに、だんだんまっすぐに伸びていきます。
葉は互生し下部の葉は柄がありますが、上部の葉には
ほとんどありません。 表面には細かい毛があります。
ミズタビラコではなく、コシジタビラコとした理由
#4は、#2の果実の部分をトリミングし拡大したものです。 果実は4分果で、若い頃は黄緑色をしていますが、熟すと褐色から黒褐色に変わります。 形は丸みを帯びた三角形に見えます。成熟した果実は三角錐(四面体)になります。
ここからが重要です。分果は周辺部がやや白っぽい突起した部分で縁取られたようになっています。これを「環状の付属体」と表現してよさそうです。 ネット上にあるミズタビラコの果実の写真を見ると、どれもこのようになってなく、果実の表面はほぼ平坦です。(ミズタビラコの果実の写真があるサイトをあとでご紹介します)
普段使っている図鑑にはコシジタビラコは掲載されてなく、所有する図鑑では唯一、平凡社の「フィールド版 日本の野生植物 草本」に文字のみの記載がありました。 その中に「分果の背面に環状の付属体がある」とあります。 ネット上ではコシジタビラコを掲載したサイトは多くはないですが、掲載しているサイトの多くに、この一文があるのです。
「分果の背面に環状の付属体がある」
ミズタビラコと区別する上で、これが最重要ポイントのようです。 しかし、この「背面」という言葉に大変悩まされました。 写真で見ての通り「環状の付属体」は背面ではなく前面にあります。 背面と言うなら、花冠の根元であった部分、つまり写真では見えない果実の裏側であることになります。 果実を取って確かめたりしていないので、いったい背面にどのような「環状の付属体」があるのか?、今となってはわかりません。
しかし落ち着いて考えてみると、前面にこれだけ際立った特徴があるのに、なぜ背面のことだけしか述べていないのでしょう? これはおかしい!
仮に「背面」としている面が、写真#4で前面に見える部分を指しているのなら、非常に納得ができます。 ではなぜ果実の前面を「背面」としたのでしょうか?
ここからは私の独断的推測になることをお断りしておきます。
観察者が果実の特徴を調べるにあたっては、十分に成熟した果実を観察したのは間違いないと思います。 上で述べた通り果実は四面体です。 一辺の長さは1.0〜1.2mm。 これを数個か数十個かわかりませんが、机の上にパラパラと置いたとします。 もし果実の形状が「正四面体」であり、かつ、重心が果実の中心にあったのなら、机に接する底面は、ランダムにいろいろな面になることでしょう。
しかし実際には果実は正四面体ではなく、ややいびつな形をしています。さらにもし重心が「環状の付属体がある面」の近くであったと仮定すると、パラパラと机の上に置いたときに「環状の付属体がある面を底面にして」立つことが多いのではないでしょうか。
そのような状態の果実を観察者が指かピンセットでつまんで「環状の付属体」がある面を観察しようとすると、果実を裏返さなければ見えません。「裏返して見える物」、それは「背面」です! このように観察したので、「分果の背面に環状の付属体がある」という表現になったのではないでしょうか?
乱暴な推測かも知れませんが、上記が正しいと仮定すると、自分が見た花と図鑑の解説が一致します。
さらに今回の観察地はコシジタビラコが分布する「近畿〜東北地方の日本海側」に含まれる位置であることから、出逢った花はミズタビラコではなく、コシジタビラコとして間違いないと考えます。
一番密に生えているところでこんな感じでした。もっと湿原の奥まで探索していたら、たくさん見ることができたかも知れません。
すぐ近くを小さな清流が流れていて、根元付近は半ば水に浸かるような環境です。 周辺は保水性の極めて高い立派なブナ林なので、よほどとんでもない大雨にでもならない限り、流されてしまったりすることはないでしょう。
きれいな水辺が好きなので、ミズタビラコの名がついたのでしょうか。ちなみに、キュウリグサは別名タビラコと言います。(キク科のタビラコと混同してしまうのでほとんど使われません)
コシジタビラコ
山地の渓流の近くなどに生える、高さ10〜40cmの多年草。葉は楕円形で長さ1.5〜4.0cmで互生し、表面には細かい毛がある。葉、茎ともに柔らかい。枝先に花序を出し、淡青紫色の花をやや密につける。果実は4分果。環状の付属体があることで母種のミズタビラコと区別できる。本州の近畿地方以北秋田県までの日本海側に分布する。花期は5〜6月。
ミズタビラコ
水田平子 ムラサキ科 キュウリグサ属
Trigonotis brevipes
2011.07.17 追記
やっとミズタビラコ(水田平子)を見ることができた! と喜んで速報まで出しました。しかしその後、分果の形状をよく調べたところミズタビラコではなく、変種のコシジタビラコ(越路田平子)であると判明し、訂正しました。 ここまでは、コシジタビラコの記事で述べた通りです。
ところが、7月15日に掲載したコシジタビラコの記事をご覧になった信州の花友さんが、翌16日に私たちが訪れた湿原に行かれ、分果を細かく観察されたところ、なんとコシジタビラコとミズタビラコが同じ場所で混生していることが判明したのです! (北信州のHさん、ご連絡ありがとうござました!)
これには非常に驚きました。母種のミズタビラコが同じ場所にいるなんて、夢にも思わなかったですよ。分果が明瞭に写っている写真を分析し、コシジタビラコであると判断したので、その場所に咲いているものはすべてコシジタビラコであると、よく確かめもせずに決めつけていました。この早合点は反省しなければいけませんね。
そして自分が撮影した写真をすべてよお〜く見直したところ、ミズタビラコの分果の特徴を持つ株が写っていました! 下の写真#6です。
#6はこのページのその他の写真と同じ場所で撮影したものです。他の植物の葉がたくさん写り込んでしまい、掲載に適さないと考えボツにしていたものです。 しかし拡大してよく見てみると、分果の形状がコシジタビラコとは違っていたのです。 ピンク色の枠内を拡大したものが、次の写真#7です。
明らかに#4のコシジタビラコの分果とは異なるように見えます。
更に拡大したものが次の#8です。画質は悪いです。
分果の表面は多少いびつできれいな平面ではありませんが、
「環状の付属体」と言えるものは見えません。この株はミズ
タビラコであると言って間違いなさそうです。
#9は、#3のミズタビラコと同じ個体を、少し引いて撮影したものです。下の方にも花が見えますが、拡大して調べてた結果、こちらは環状の付属体を持つ分果があり、コシジタビラコとわかりました。
このように、この場所ではミズタビラコとコシジタビラコが完全に入り交じって咲いていたのでした。 予期せぬことで非常に驚きました。
ミズタビラコ
山地の渓流の近くなどに生える、高さ10〜40cmの多年草。葉は楕円形で長さ1.5〜4.0cmで互生し、表面には細かい毛がある。葉、茎ともに柔らかい。枝先に花序を出し、淡青紫色の花をやや密につける。果実は4分果。変種のコシジタビラコのような環状の付属体はなく、表面はなめらか。
本州・四国・九州に分布する。花期は5〜6月。
お茶漬け #9
(水曜日, 06 8月 2014 17:28)
とても興味深く拝見させていただきましたm(_ _)m。越路タビラコの分果のお写真はハッとする美しさを感じましたm(_ _)m。キュウリグサのロゼットを見ていて感じていたことが、キュウリグサもタビラコとよばれていたらしい事もわかり、スッキリいたしましたm(_ _)m
hanasanpo #10
(水曜日, 06 8月 2014 23:02)
お茶漬けさん、屁理屈を展開している当ページをお読みいただきまして、どうもありがとうございます。しかし、屁理屈を述べられるのは素人花観察者の特権であり、楽しみでもあります。
キュウリグサの件がスッキリして何よりですね!
2011.07.15 掲載
2011.07.17 ミズタビラコを追記
2018.01.02 参考外部サイトの消失に伴い本文を一部修正
コシジタビラコが掲載されたページ
Dairy-Hiroダス
他のムラサキ科の花のページ
ご参考 タチカメバソウ
かのん (土曜日, 16 7月 2011 19:21)
確かに分果の写真がミズタビラコと違いますね。
コシジタビラコの特徴の環状の付属体がちゃんとありますね。
背面の考察は正論だと思います。
こんなに四つも環状の付属体があったら、安定して机の上に収まるのは付属体が下でしょうね。
ひっくり返すといままで下を向いていたのは背面扱い^^
言われてみればあっさり理解できますが、そこに至るまでのkenさんの努力に、山田クン座布団10枚^^
キューリグサの別名はタビラコだったのですね~
勉強になりました。
hanasanpo (日曜日, 17 7月 2011 00:52)
かのんさん、ご賛同いただき、ありがとうござます!
マニアック過ぎて読者の方が読んでくれないのではないかと、内心心配していたのですよ。
これで安心できました! 長い文章を読んでいただき、本当にありがとうござます。
ところで、つい先ほど驚きの新事実がわかりました。
元々この花の情報を下さった信州の花友さんが、我々のコシジタビラコの情報を見て、本日(16日)同じ湿原に行かれたのです、分果に注目して観察されたようですが、そうしたらなんとミズタビラコとコシジタビラコが同じ場所に咲いていたとおっしゃるのです。
「な、なんですと〜?!!」という感じで驚きました。そこで自分の撮った写真をもう一度、1枚づつ慎重に見直したところ、なんとミズタビラコの分果を持つ株が見つかりました!
母種と変種が同じ場所で混生しているなんて、夢にも思わなかった!
このページ、いったいどうやってまとめたらいいんだ?と頭を抱えております。
でも、実はミズとコシジを両方見れちゃっていたなんて、うれしいことではあります!
yuumin (火曜日, 19 7月 2011 18:28)
コシジタビラコと言う植物があることを初めて知りました。
文果が違うのでしょうか?
見てると見分けがつかなくて頭が痛くなりました。(笑)
ミズタビラコだと思い何処に行っても気に留めませんでした。
分布が本州、四国、九州と成っていますので、
此からは気を付けて観察したいと思います。
寂地山に行った時に同じムラサキ科のタチカメバソウは見ましたがご覧に成られた事がお有りですか?
hanasanpo (火曜日, 19 7月 2011 22:27)
yuuminさん、花のページにもコメントをありがとうござます!
私もコシジタビラコという変種がいることを知ったのは、つい先日のことです。
ミズタビラコとすべてがそっくりですが... 分果の形状が違います。
分果の形状以外では、区別することは困難と思えます。
タチカメバソウは、わずか数株でしたが、昨年初めて見ることができました。
(「ムラサキ科」のページの下の方にある「今後掲載予定の花」に
記載しています)
純白の花弁の中央の黄色い副花冠がかわいい花ですね。関東では、そう簡単には
見ることができない花だと思います。
四国ではどうでしょうか? 寂地山にはたくさんいるのですか?
yuumin (火曜日, 19 7月 2011 23:04)
タチカメバソウは分布が北海道、本州で四国には自生してません。
昨年に山口県の寂地山へカタクリを見に行きました。
山頂は雪でカタクリは埋もれて見られませんでしたが、
下山の途中で小さな可愛い花を見つけ調べるとタチカメバソウです。
今年もタチカメバソウに会いたくて行ってきました。
色々な場所にたくさん咲いていますよ。
ご住所差し支えなければ此から行く山の景色、山野草を何時もCDにしてますので、お送りいたします。(*^_^*)
hanasanpo (木曜日, 21 7月 2011 03:30)
yuuminさん、四国地方の花は見たことがないものが多く、興味津々です。
お手数をかけさせてすみませんが、お言葉に甘えさせていただきます。
住所を連絡差し上げますので、Contactのページからメールアドレスを
お教えいただけますか? よろしくお願いします。
okaちゃん (木曜日, 30 5月 2013 15:30)
山形県西蔵王でルリソウの花にそっくりで白花を見ましたが、名前が分かりませんでした。「タチカメバソウ」だったの
でしょうか?
hanasanpo (木曜日, 30 5月 2013 21:53)
ルリソウにそっくりな白花は、もしかするとタチカメバソウかも知れませんね!
タチカメバソウの専用ページはまだ作っていないので、このページの下に写真を掲載しました。
ご覧になった花と似ているでしょうか?