2014年に初めて見ることができた植物の一つです。 ビャクブ科
(Stemonaceae)という聞き慣れない科名とともに、ナベワリという
種名も変わっています。 名の由来は、図鑑やほとんどのウェブサイ
トで、このように紹介されています:『葉が有毒で舐めると舌が破れ
るという伝承があり「ナメワリ」とされていたが、これが訛ってナベ
ワリとなった』。 これは牧野富太郎先生の解説が大元になっている
ようです。
有毒であっても実際に舌が破れるとは考えにくいので、舌が破れた
と思うほど強い刺激があるということでしょうか? あるいは破れな
いにしても、出血を伴うほどの強烈な毒性があるのか? いずれにし
ても自分で試してみようとは思いませんが、このことについて少しだ
け調べてみた結果を後半に記載しました。
立った姿勢で見おろすと、こんな感じです。 分布は本州関東
南部以西と四国、九州で、およそ年平均気温15℃線以南の暖地に
生える多年草です。 観察地は薄暗く湿った、杉林の傾斜地でした。
草丈は30〜50cmほどで、小さな植物ではありません。 事前
に「ユリ科のチゴユリの葉に似ている」と聞いていました。 確か
に雰囲気は少し似ていますが、本種の方がずっと大きいです(チ
ゴユリは長さ8cmほど、本種は8〜14cm)。 花は葉の下に隠
れるようにつくので、上からではほとんど見えません。
真上から見た様子。 葉は茎の上部に3〜5個、互生します。
卵状楕円形で幅は3〜8cm、先端は急に細くなり、尖ります。
5〜7本の太い縦脈が平行しているのが印象的です。 葉はあまり
光沢がない感じ。 基部はわずかに心形か切形。 「葉の縁は細かく
波打って縮れている」と図鑑にありましたが、その通りである葉と、
それがあまり目立たない葉とがありました。 どちらかというと、
葉の基部に近い方が縁の波打ちが目立つようです。
横から見た姿です。 葉は、やや斜め上方に向かって
生えていましたが、水平に展開している葉もありました。
さてお待たせしました、花です。 上の写真は花の背面です。
葉腋から糸状の花柄を伸し、その先に花が1つ、ほぼ真下を向
いてつきます。 このため上から眺めると、花の背面を見るこ
とになります。
花は薄緑色をしています。 花被片は4個あり、平開して十
字形に並びますが、外側に位置する外花被1個だけが、とても
大きいのです。 これを見ただけでも、かなり変わった形の花
だと思いました。
花柄の基部寄りには、ごく小さな苞があります。 あまりに
小さいので赤い矢印で示しました。 また花柄と花は若干色が
異なりましたが、その境界は明確で、まるで花柄と花の接続部
のように見えました(青い矢印)。
花の側面です。 あまり面白くないですね。 花柄は長さ4cm
ほどで葉柄より長く、緩やかな弧を描いて下垂していますが、花と
の接続部でちょっと角度が変わり、花はほぼ真下を向きます。花被
片はやや反り返っているように見えます。
このように真下を向いた花の撮影は大変です。 でも、親指姫
になったつもりで花の下に潜り込んでみましょう!
身長5cmの親指姫になって、下から見上げてみました。 お〜、花の顔が見えた!
ジャ〜ン! これがナベワリの花です。 思わず「なんじゃこりゃ?
変な花!」と声に出してしまいました。 花には失礼なのですが。
もっと寄ってみましょう。
中央のみかん色の部分が目立ちます。 図鑑には「葯は黄赤色」
とあるので葯だと思うのですが、なんだか花粉のようにも見えます。
花被にも葉と同じように縦の脈があります。
少し横から見ることで雄しべがよく見えました。 雄しべは
4個で、太く短く、中央に並んで直立しています。 花糸は花
被と同色の薄緑色部分。 葯は、やはり黒っぽい部分では?
みかん色の部分は、裂開した葯から出てきた花粉なのでは?
と思うのですが....。 どなたかお詳しい方、ご教授下さい。
本ページを作っているうちに、変わっていますが「変な花」
ではないと思えてきました。 多くの写真を見て、見慣れてき
たせいかも知れません。
ナベワリの仲間には、日本ではヒメナベワリとシコクナベワ
リがいます。 これらもいつか見てみたいものです。
<毒性・薬効について>
ナベワリの毒性や薬効についてはなかなか資料が見つからず、はっきりとはわかりませんでした。 しかし属は違いますが、同じビャクブ科のビャクブやタチビャクブについては文献や資料が見つかりました。 素人の勝手な推測ですが、ナベワリにもビャクブと同様な成分が含まれているのかも知れません。
ビャクブやタチビャクブは中国原産で、江戸時代の享保年間(1716-1736頃)に、中国から薬草として渡来したと考えられているそうです。 根茎を煮て陰干ししたものは、百部根という生薬名があり、用途は鎮咳(咳どめ)や害虫駆除だそうです。 今でも稀に栽培されているとか。
有効成分はアルカロイドのステモニン(Stemonine)やステモニジン(Stemonidine)などで、殺菌効果も強く、百部根を煮た抽出液をシラミやノミなどの皮膚寄生虫を駆除するための外用薬ともするそうです。(これらの有機化合物の名称は、Stemonaceae(ビャクブ科)に由来すると思われます)
英語版WikipediaのStemonaceaeのページには、こんなことが書かれています。『ラオスにおいては、人々はシラミやノミの対策として、抽出液を飲んで自身の血液を有毒化します』 これはちょっと眉唾モノの解説です。 血液を有毒化してしまっては、シラミやノミをやっつける前に人体に深刻な悪影響が出るのでは? 『魚毒としても利用される』ともあります。 この場合の魚毒とはフグに代表される、魚の持つ毒ではなく、漁業で魚を弱らせたり殺したりするための毒を指します。 魚の漁に植物の毒を使う例は世界中にあり、こちらは納得できる話です。
いずれにしても「薬は効果の弱い毒」ですから、素人がうかつに手を出さないほうが良さそうです。
2014.05.23 掲載
針木のぽち (土曜日, 31 8月 2019 00:42)
こんばんわ。高知でもナベワリは見かけます。四国カルストや鳥形山などです。シコクナベワリが主流で、花びらがほぼ同じ大きさで、シャクが赤いです。ヒメナベワリは自生は見たことないですが、牧野植物園で見ました。えんじ色の小さい花でした。
HiroKen (金曜日, 06 9月 2019 22:20)
針木のぽちさん、コメントをありがとうございました。
リプライが遅くなり申し訳ございません。
四国の植物は、やはり少し違うのですね。シコクナベワリやヒメナベワリは見たことがないので、いつかぜひ見てみたいと思います。