今年も大好きなヒナノキンチャクに会うことができました。 昨年は台風12号の影響で自生地が荒れてしまい、数も減ってしまったように見えました。 しかし今年は見事に復活していて、かわいい姿をたくさん見ることができました。
実はヒナノキンチャクのページは2010年8月に作成済みです。「野山の花アルバム」の通例では、追加の写真を掲載する場合は、花のページの末尾に入口を設け、そこからしか入れない「奥の間」で掲載することになっています(何の意味があるんだか)。
しかし特にお気に入りのヒナキンは別格! 「ヒナノキンチャク 2」として再度表紙を飾ることにしました。 そして今回は「ヒナノキンチャクは、なぜ、かわいいのか?」を考えてみました。
台風などにより発生した洪水により自生環境が撹乱されることも、この植物には必要なようです。 ダム建設や河川の護岸工事でそのような環境が少なくなってしまったもの、数を減らしている大きな要因と思えます。
人間が洪水を防ぐために治水を行い河川の水をコントロールすると、定期的に環境が撹乱されることが必要な植物にとっては、死活問題となってしまうのでしょう。 カワラノギクなども同様ですね。
この2枚の写真は2011年9月12日の自生地の様子です。 高知県に上陸し各地で大きな被害を出した台風12号が日本海に抜けてから約1週間後。 自生地は洪水の急流にさらされた痕跡が色濃く残っていました。
しかし根まで露出されてしまったヒナちゃんは、必死に地面にしがみつき、大切な次の世代へつながる命をその巾着の中で守っていました。
そして今年。 ヒナキンは見事に復活していました。
場所によっては注意して歩かないと踏んでしまいそう
なほどたくさんいました。
花は総状花序の下から上に咲き上がります。 今回
は茎頂付近まで開花していました。ギリギリ見頃の時
期に間に合った! 来年はもう少し早く来よう!
花も果実も葉もかわいい! こんな3拍子揃った植物はなかなかいない!
...しかしなぜこの植物を「かわいい」と感じるのでしょう?
色がキレイで、愛嬌がある形で、ちっこい花がたくさん並んでつくから「かわいい」のでしょうか? それらはすべて当たっていると思いますが、それだけではない気がします。「かわいいのには理由がある!」と思うのです。
上の2枚の写真を見ながら、花の構造のおさらいです。 花弁は3個。 一番目を引く、丸い形の黄色や赤色の部分は「竜骨弁(りゅうこつべん)」と呼ばれる花弁です。 袋状になっていて、中には花糸が合着した8個の雄しべと、雌しべがあります。 竜骨弁はマメ科などの植物の蝶形花によく見られますが、このように丸い形になりません。
竜骨弁の上、頭に手拭いをちょこんと乗せたように見える小さなピンク色の部分が、残り2個の花弁です。 2個がくっつくように並んでいるので、まるで1個のように見えます。 竜骨弁の入口はこの花弁で隠されています。 昆虫が花に訪れている場面を見たことがないのですが、おそらく虫は2個の花弁と竜骨弁の間に頭をねじ込み、背中で花弁を押し上げ、足で竜骨弁を引き下げ、中の蜜を吸うのでしょう。 そのとき雄しべの先端が虫の腹に触れて花粉をつけるのだと思います。
萼片は全部で5個です。 2個は淡いピンク色をした花弁状の側萼片となり、楕円形の椀状で目立ちます。 「蕾のときは竜骨弁を左右から包んでいたんだな」と誰でも容易に想像できる形で、そのわかり易さが、かわいらしさにもつながっています。 残り3個の萼片は花の基部にあり、小さいので目立ちません。
さて、「ヒナノキンチャクはなぜかわいいのか?」ですが、花については私は次のように考えます。
1. 丸を基調とした形状
竜骨弁は正面から見るとボールのように丸く、側萼片も楕円ですが丸く、どちらも立体的です。 花全体が丸を基調とした形状と言っても過言ではないでしょう。 丸い形状は、角張った形状よりも優しさやかわいらしさを感じます。
2. 色合いの妙
竜骨弁の人を惹きつける鮮やかな黄色と、濃い赤色のコントラスト。 なぜか黄色から赤色に変わる途中の色はないのです。 黄色か赤色。 明確で潔く、曖昧さがありません。 そんな竜骨弁の周りは淡いピンク色の側萼片で埋められています。 このためどぎつさはまったくなく、ただ美しいと感じるのです。
3. 余計なものがない
開花して間もない黄色い竜骨弁の花から2段ほど下の花は、もう花冠の基部を突き破って果実が顔を出し始めています。 更に下には、完全に終わった花が少し残りますが... このように古くなっても、花があまり汚い感じにならないのです。 茶色く干からびた花の残骸がくっついていることもないではないですが、それはごくまれ。 基本的に終わった花はすぐに落ちて、花の残骸を残さないのです。 花茎の下部で果実が連なる部分には、花の痕跡は一切ありません。 植物体全体に余計なものがないので、美しいと感じるのです。
以上が私が考える「ヒナノキンチャクがかわいい理由」でした。
花茎はやや反り返ります。 果実が連なる部分には花の残骸を残さないので、スッキリした印象です。 果実は蒴果。 円盤状で先端に微突起があり、一方向に整然と並んでつきます。 中には、ヒナノキンチャクの一番大切なものが入っています。 この果実を巾着にたとえて和名がつけられました。
竜骨弁に戻りますが、私には大きなナゾがあります。 開花したばかりは明るい黄色で、時間が経つと濃い赤になる。 しかし、黄色から赤色に変化する途中の色の花を見たことがないのです。 少し赤味がかった黄色とか、黄色と赤色を混ぜた色(朱色?)があってもいいじゃないですか! なぜそのような状態の色がないのでしょうか? 図鑑やネットの情報ではこのことに触れている記述はありませんでした。
とても不思議なのです。変化途中の色が見られないということは、変化が非常に早く起こるために違いありません。 何日もかけて色が変わるのであれば、必ず変化途中の状態が観察できるハズです。 でもいくら早いといっても、パッ!と一瞬で切り替わることはできないでしょう。 そこで、自分なりに次の仮説を立てました。
・個々の花の寿命は短く、せいぜい2〜3日である。開花時に黄色だった
竜骨弁は、1日経つと赤く変わる。
・竜骨弁の色の変化は、夜間に起こる。 だから昼間観察しても変化途中
の花を見ることはできない。
来年は、ぜひともこの仮説が正しいか、検証したいと思います。 自生地近くに宿泊し、最低でも3日間ほどは同じ花に張りついて観察する必要があると思います(そんな時間が取れるかな〜?)。 夜間の観察も必要です。 今から楽しみです。
葉は基部から分岐し、隆起線があります。 卵円形または楕円形で、先端がちょこんと小さくとがるものから、丸いものまで変化があります。 上の左の写真では、上側の葉の先端はとがっていますが、下側の葉は丸みを帯びています。 長さは1〜3cmで、基部は細まり、長さ2〜8mmの葉柄につながります。 葉の縁に鋸歯はありませんが、毛があるのが特徴です。
葉の形や大きさも花にベストマッチで、全体的なバランスがとれていると感じます。 だから葉もかわいいと感じるのでしょう。
2012年8月に環境省が発表したレッドリストでも、変わらず絶滅危惧1B類に指定されていました。 近い将来の絶滅が非常に危惧される種であるということです。 日本からこの花が消えてしまうという悲しいことにならないよう、切に祈ります。
2012.09.09 掲載
BOGGY (金曜日, 14 9月 2012 08:02)
おはよう。
ブログにコメントありがとう。
「ひなのきんちゃく」というハンドルネームの方と巡り会うまで、「ひなのきんちゃく」という野草があることを知りませんでした。調べてみて、小さなきれいな花と知って、これをHNにする人はどんな人なのだろうと興味を持ったのでした。
残念ながら今年はこの花は見られませんでした。
今年は念願のレンゲショウマに会えたので、来年は、「ひなのきんちゃく」の花と人とに会えたらいいなと思っています。
hanasanpo (金曜日, 14 9月 2012 21:13)
BOGGYさん
ヒナノキンチャクほど可愛くないですけど・・
主張し過ぎない愛らしさと、
健気に咲く姿に勇気をもらえる花です。
それにあやかりたいと、
「ひなあられ」から「ひなのきんちゃく」に変えました。
来年見に行ってくださいね!
人のひなきんにも逢ってみますか~?!
ギャップが大きすぎると腰抜かさないように~
(HiroKenのHiro)
みちほ (土曜日, 01 11月 2014 09:25)
今日は雨・・・せっかくの三連休なのに!!
朝PCを開いたら嬉しいメール、ありがとうございます!
ヒメハギ科ヒメハギ属ってありますが、私にはとても同じ科の花に見えません!
みな、それぞれ可愛いし色合いとか造りとか個性的で思わず引き込まれちゃいました~
今年初めて見たヒナちゃんを思い出しています(笑)
それにつけても植物博士顔負けの解説に引き込まれています!
が、頭にはなかなか入っていかない脳みそ(涙) 秘策のコンデジでこんどは細部までよく見てみなくては・・・ 無理かもしれませんがいつも刺激をいただいてます。
hanasanpo (日曜日, 02 11月 2014 00:48)
3連休に雨はガックリですね。 でも明日は晴れるかも!
みちほさんはメールマガジンの登録者第一号なので、送信する時はいつも一番上にアドレスが来ていますよ(BCCで送っているので受けた方には見えないですが)。
いただいたこのコメントは、カキノハグサに対してですね?
この花はずっと見たかったので、初対面のときは感激しました。
ヒナちゃんの仲間とは思えない色・形ですよね。
TG-3の深度合成撮影のカギは、やはりいかに手ブレ・被写体ブレを少なくするか、のようです。
先日のイワレンゲは少々の風では揺れない植物であったのと、近くの岩に手を置いて撮影できる環境であったので、一度も合成に失敗せずに撮影出来ました。
吉田秀夫 (日曜日, 06 8月 2017 17:00)
本日福島県あぶくま洞で撮影してきました
Ken (日曜日, 06 8月 2017 22:53)
昨年報道や論文で発表された群生地に関する情報は得ていました。機会があれば訪れたいと思っていましたが、残念、今年は成りませんでした。