海岸や河原の砂地に生える、1年草です。 葉緑体を持たず、光合成で炭水化物を合成することはできません。 寄生根という特殊化した根を宿主の根に結合させ、養分を奪取して生きる、寄生植物です。
宿主はどんな植物でもよいわけではなく、キク科のヨモギ属と決まっていて、特にカワラヨモギが大好きです。 従って分布域はカワラヨモギとよく一致します。 上の写真の細かく裂けた緑色の葉は、カワラヨモギです。
自らは仕事(光合成)をせず、他の植物が一生懸命働いて得た稼ぎ(養分)を奪い取って生きる。 まるで女性に働かせて、その稼ぎでパチンコや競馬をしながらブラブラ遊んで暮らす、人間のヒモのようではないですか。
いやいや、違います。 ハマウツボは、相手をカワラヨモギと決めているのです。 人間のヒモのように、稼ぎが悪くなったから相手を乗り換える、なんてことは絶対にしない。 決して浮気をしないのです。 カワラヨモギが滅びれば、ハマウツボも滅びる。 運命を共にすることを決意しています。 死なば諸共、一蓮托生。 これほどの決意は、人間のヒモにはないのでは。
しかし... そもそもカワラヨモギが生きるのは、貧栄養の砂地。 樹木が少なく強烈な太陽光が直接降り注ぎ、雨はあっという間に砂に吸い込まれ、極度の乾燥状態です。 大変厳しい環境です。 カワラヨモギとて、やっとこさ生きているのに違いないのです。 非情にも、そんなカワラヨモギに寄生するとは... もしかすると、カワラヨモギはあえてライバルの少ない砂地に進出し、ハマウツボも、ライバルが少ないことをよいことに、相手に選んだのかも知れませんね(これは個人の見解です)。
上の写真は今回ハマウツボを見つけることができた砂地です。 海岸に近く、5月といえど、日差しはかなり強く、海風も吹き付けます。 砂地の中央では、まったく植物が生えていませんでした。 カワラヨモギは、周辺の低木が茂る領域にもいませんでした。 砂地と低木が茂る領域の間の、低い草が茂る領域にのみ、カワラヨモギが生えており、その中に点々とハマウツボがいました。
つまりこの地では、ハマウツボは砂地を縁取るような、狭いベルト状の領域にしかいないということです。 一番厳しい領域の最前線で頑張る植物と言えるでしょう。 そして彼らの棲む場所は、ちょっとした環境の変化で失われかねない、危ういものであると感じました。
事前に入手していた情報はあったのですが、あまり詳細ではなく、付近の海岸をあちこち探し回りました。 そしてやっと辿り着いたのがこの砂地。 目的のハマウツボではなく、まずはカワラヨモギを探します。 カワラヨモギ無きところに、ハマウツボ無し。 そんな気持ちで探っていると、いました、カワラヨモギ! 上の写真がこの日初めてお目にかかったカワラヨモギでした。 まだ小さな幼体です。 葉が羽状に全裂し、裂片は細く糸状になります。
そして、ハマウツボも発見! 砂地にまばらに生
えるカワラヨモギの中に、点々と咲いていました。
草丈は10〜25cm。 茎は黄褐色で太く、直立します。 上の写真の一番大きな株は、高さ12cmほど。
ハマウツボ科の代表選手のような和名の由来は、海岸に咲き、花がシソ科のウツボグサに似ているからだそうです。 ところでそのウツボグサの「靫(ウツボ)」は、あの海にいるイカツイ顔をして長い体の「鱓」ではなく、竹などを編んで毛皮を張って作った「矢を携帯するための筒状の容器」だそうです。 そんなものは日常で目にしませんので、わかりませんよねえ。 尚、「靭」と書くのは誤用だそうです。
茎には、まばらに白色に見える軟毛が生えていました。 葉は退化し鱗片状、その色は黄褐色で、狭卵形または披針形。 先端は膜質となってとがり、長さは1〜1.5cmほど。 互生、かな? また鱗片葉の基部付近にも軟毛が生えていました。
5〜7月頃、茎の上部に淡紫色の花を穂状につけます。 この花色は上品で美しいと思いました。 たまにこのような寄生植物を、奇っ怪であるとか、不気味であるという感想を述べられる方がいらっしゃいますが、それは個人の感想なので何の問題もないのですが、私はこの花が美しいと思いました。
周りには当然カワラヨモギがいますが、上の写真でハマウツボの左側や、写真左下に、枯れた状態になっているものが写っています。 もしかすると、ハマウツボに養分を吸い取られて枯れてしまったのかも知れませんね。
花軸、苞、萼、花冠には白く見える軟毛がやや密に生えています。 要するに全体に白っぽい毛が多い。 これは海岸や河原の強い日差しや、下の砂地からの照り返しを和らげる目的だと推測します。
本種と非情によく似ていて、丘陵地に生え、キク科のオトコヨモギなどに寄生するオカウツボ(Orobanche coerulescens f. nipponica (Makino) Kitam.)という品種があるそうですが、これには毛がないそうです。 丘陵地は海岸ほどには日差しが強くないので、わざわざ毛を生やす必要がないのかも知れません(個人の推測です)。
このページで軟毛を「白っぽい」とか「白く見える」と表現しているのは、毛の色が白色ではないためです。 個々の毛は、透明です。 たくさん集まり、光が乱反射するので白っぽく見えるのだと思います。 これは他の多くの植物でも見られます。
花を近くで見ると、このようになっています。
花には柄がなく、太い筒部があります。 花冠の長さは、約2cm。
ハマウツボの花冠の先は唇形で、上唇は先端が凹み、下唇は3裂します。 どちらも縁は滑らかでなく、浅く不規則な鋸歯がありました。 紫色の脈が見えます。 花冠の外面には白く見える軟毛が生えますが、内面に毛はありません。
柱頭はほぼ白色、先端がふくらんで横に広がり、中央部はへこんでいます。
雄しべは4個あり、うち2個は短いそうです。 外からは柱頭が邪魔をし、よく見えません。 花糸は見えました。 白く、毛はないようです。 柱頭の脇に、裂開し花粉を放出し終えた葯と思われる部分が覗いている花が、いくつかありました。 なぜか、みんな柱頭の向かって左側に見えました(矢印部)。
図鑑には、「苞は披針形〜3角状卵形で先がとがり、長さ1.5cm。 萼は長さ1cm、各片は2裂し、先がとがる」とあります。 なるほど。 花の正面からではよく見えないだろうと下からのアングルで探ってみます。 苞はすぐにわかった。 茶褐色で上向きにとんがっている部分でしょう。 萼は? 萼がわからない。 萼はどこに? 毛むくじゃらに隠れてしまっているのでしょうか?
撮影した写真を何度も見直し、なんとか萼がわかるものを探しました。 非情に細く、見つけにくかったです。 開花した花よりも、これから開花しようとしている花で観察しやすいようです。 上の写真の「萼」は「萼裂片」と読み替えた方がよいかも知れません。
花は茎の下から上に順に咲き、当然ながら下の花から終わります。 花が終わると、鉄さびのような色になります。 これを見ると、この地では4月の終わりあたりから咲き出していたのではと推測します。
上のように地上に茎を伸し始めたばかりの、若い個体も多くありました。 これからまだまだ咲くのでしょう。
ずっと見たかった花を見つけて観察することができ、大満足の花さんぽでした。
< 引用・参考文献、及び外部サイト >
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*1 野に咲く花 山渓ハンディ図鑑1 p.470 ハマウツボ
山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷
*2 日本の野生植物 草本 Ⅲ 合弁花類 p.135 ハマウツボ
平凡社 1981年11月10日 初版第2刷
2016.01.17 掲載
ゆき (月曜日, 18 1月 2016 00:04)
こんばんは、HIROさん、kenさん、はまうつぼとカワラヨモギの成り立ちやヨーロッパやユーラシア大陸、極東の日本にも、分布してる経緯からして、大陸由来の植物なのかな?と思ってしまいました、海岸の過酷な状況に、生息圏をもち、カワラヨモギに、寄生して、美しいお花を咲かせるハマウツボ、私てきには、寄生植物では、あるが、過酷な状況を共に、寄り添い生きる姿に、すごいな❗なかなか見つける事の難しいお花に、HIROさん、kenさんが、めぐりあえた、感動を分けていただき、ありがとうございます。淡い青紫色のお花のハマウツボとカワラヨモギの美しい葉、かわらず、後世に、残したいお花ですね。
HiroKenのKen (月曜日, 18 1月 2016 04:35)
ゆきさん、おはようございます。
いつもありがとうございます。
もしかするとカワラヨモギはハマウツボに養分を吸い取られるので、「頑張らなくっちゃ!」と張り切って、その結果、勢力を増すことができているのかも知れません。自然の中に無意味なものは無いので、ハマウツボもきっと何らかの形で生態系の中で役割を果たしているのだと思います。
昨年は千葉県に4度もお邪魔しました。今年もよろしくおねがいします。
ゆき (月曜日, 18 1月 2016 06:15)
おはようございます、HIROさん、kenさん、去年、千葉に、おこしくださり、ありがとうございます、千葉県民の人として、嬉しいです。千葉にも、おふたりが、紹介して、花さんぽで、見られるような、貴重な自然が、あるのが、新鮮で、感動しました。今年も、ぜひ、おこしください。
HiroKenのKen (月曜日, 18 1月 2016 19:21)
千葉県は、花は多いし、魚料理はおいしいしで、大好きです。
また遊びに行きま〜す!
茨城の散歩人 (月曜日, 04 5月 2020 13:30)
私もここ1週間、ヤセウツボに凝っていました。昨日漸く、その名前にぶつかり。安堵しています。ハマウツボとヤセウツボの違いはまだ分かりませんが、何となく興味の惹かれる植物ですね。
HiroKenのKen (月曜日, 04 5月 2020 14:39)
名前が判明してよかったですね、お役に立てて幸いです。在来種のハマウツボも、外来種のヤセウツボも、どちらも他の植物に寄生して生きる植物ですね。