ハギクソウは「葉菊草」で、紅葉した葉が菊の花のように見えることが名の由来です。 花よりも美しく紅葉した葉の方が有名なようなので、あえて葉を中心に据えた写真をトップに使いました。 今回は岐阜県のOさんに案内していただき、貴重な花を見ることができました。 Oさんの友人のHさんご夫妻も参加され、5人での賑やかな花散策となりました。
高さ35〜45cmの、海岸の砂地に生える多年草です。 直立した茎に茎葉を密に互生させます。 茎葉は花期には長さ4〜5cm・幅5mmほどで、花後に葉菊になると長さ7cmほどになります。
日本では現在愛知県にのみ生育します。 九州や三重県では絶滅したとされています。 生育地は限定され、個体数も約300と限られたものなので、絶滅の危機に晒されています。 環境省は最も絶滅が危惧される1A類に分類し、20年後の絶滅確率は30%と推計しています(2007年当時)。
数を極端に減らしている要因は、観光開発や砂防工事、道路建設等による生育地の直接的な破壊や、砂防のため造林されたクロマツの生長に伴う砂丘の消失によって、本種が生育できる環境は極めて少なくなっているためです。 ここまで少なくなってしまうと、たった1株の園芸目的の採集も大きな悪影響となるので絶対にご法度です。
現在残された生育地は、特に注意深く保全していく必要があると思います。
葉を上から見ると、確かにキクの花のように見えます。 始めは緑色をしている葉は、冬が近づくと少しづつ色づき始め、12月〜1月頃に美しい赤い色になるそうです。 今回は花の時期に訪れたので、紅葉した葉を見ることはできないはずでしたが、いくつか残っていてくれたのです。 フレッシュな花と並んで、素晴らしいコントラストを楽しむことができました。
数は多くありませんが、運良く草紅葉と花の競演を楽しむことができました。
場所は変わり、海岸からやや内陸側の斜面に、多くの株を見つけました。 こちらには紅葉した葉はほとんど残っていませんでしたが、開花して間もない花を海岸よりは多く見ることができました。
トウダイグサ属の植物の花は、ちょっと変わっていると思われませんか? いったいどんな構造なのか、興味を惹かれます。 このため少しだけ調べてみました。
まずは花序の様子から。 茎の上部は分岐し、茎頂に5枚の葉を輪生させ、葉腋から5本の散形枝(さんけいし)を開出します。 それぞれの散形枝には杯状花序(はいじょうかじょ)が頂生し(①〜⑤)、以後、二股分岐を繰り返します。 こんな花の付け方をするので、賑やかな感じになるのでしょう。
杯状花序は、数個の雄花、1個の雌花、4個の腺体、そして小総苞、総苞葉などで構成されています(上の写真で小総苞は見えません)。 そして雄花は雄しべのみ、雌花は雌しべのみから成っており、花弁や萼片はないのです。 どうして花弁や萼片を持たないのでしょうか? やはり少し変わった花ですね。
放射状に開出した散形枝の中心には、不稔性(ふねんせい)の「中心の杯状花序」を1個つけます(写真の◯内)。 中心の杯状花序には、散形枝と同じ数、すなわち5個の腺体と、数個の雄花があります。 しかし雌花はなく、従って結実して種子を作ることはない、不稔性の花なのです。
中心の杯状花序は他のトウダイグサ属の植物にもありますが、その役割については、よくわかりません。 これは所有する図鑑にも述べられていないのです。 昆虫をおびき寄せるための「広告塔」の役割を担っているのでしょうか? どなたかご存知の方は、ぜひご教授お願いします。
尚、「中心の杯状花序」は当サイトで便宜上使っている独自の呼び方であり、世の中的には通用しませんので、ご留意下さい。
一つの杯状花序に注目してみます。 大きな楕円形の、まるで花弁のように見える部分は、実は総苞葉です。 繰り返しになりますが、この植物に花弁や萼片はないのです。 総苞葉は花序を包むように対生します。
上で述べた「中心の杯状花序」は腺体が5個でしたが、周辺の杯状花序の腺体は4個で、1個少ない。 主軸から見て外側になる、腺体が1個欠如して空いた部分に、雌花の花柄が傾き、果実が成熟した後に、外側にうなだれます。
雌花は1個の子房から成り、子房すなわち果実の外面は低いこぶ状突起が密生し、無毛です。 上の写真の果実はまだ若いせいか「こぶ状突起が密生」という風には見えず、滑らかに見えます。
雄しべは上の写真では見えにくいので、後述します。
4個の腺体は長楕円状半月形で、両端にある突起は鈍頭で外向します。
腺体は長楕円状半月形、とは言え、よ〜く見ると両端に突起があったりなかったり、微妙にいろいろな形をしています。
腺体の形状は、トウダイグサ属の重要な識別ポイントです。 日本で見られるトウダイグサ属の植物の花で、腺体が半月形なのは本種のみです。 たとえば、トウダイグサ、ノウルシ、ハクサンタイゲキ、マルミノウルシなどの腺体は楕円形で、ナツトウダイは鋭い三日月形です。 またセンダイタイゲキは、鈍い三日月形です。 比較のために、上にいくつかの植物の腺体の画像を載せました。
上の写真は杯状花序を側面から見たものです。 なぜか雌花がすべて脱落していますが、その分、小総苞が見易いので説明のため採用しました。
腺体の下にある小総苞は、実は5個あるのですが、それらが合着し、一つの杯のような形になっています。 これが「杯状花序」の名の由来です。 総苞葉ではなく、小総苞の形状が花序の名称の元になっているのですね。 尚、図鑑によって各部の名称が異なる場合があり、小総苞を「総苞」、総苞葉を「苞葉」としている図鑑もあります。
今回の観察では、雄花は4〜6個あることが多かったように思えました。 雄花は雄しべのみから成りますが、実は2個の雄しべが合着したものです。 先端の2分岐した葯がその痕跡です。 葯は花序の外側に向かって裂開し、花粉は黄色です。
柱頭は3分し、更にそれぞれが先端で2分していました(矢印部)。
茎頂の輪生葉と散形枝の数が一つ多い、6個の株がありました。 周りの杯状花序は正常な形に見えますが、中心の杯状花序はいびつな形状をしています。 上の写真にマウスでポインターを重ねると中心部の拡大表示になります(スマホはタップ)。
形がいびつで見えにくいのですが、中心の杯状花序の腺体の数も散形枝と同じく6個あるように見えます。 これを見ると「輪生葉・散形枝の数と、中心の杯状花序の腺体の数は、常に一致するのダ!」と言いたくなりますが、そうとも言えないことが下の写真でわかります。
上の写真の花は、輪生葉と散形枝の数は基本の5個なのですが、中心の杯状花序がおかしな形をしていました。 4個と2個(?)の腺体の「2個の中心の杯状花序」があるように見えます。 一種の奇形なのでしょうか...? 変異の範囲内? わかりません。 (この写真もポインターを重ねると拡大します)
ハギクソウは、よく観察すると本当に変化に富んだ植物でした。 これ以上、数を減らさないことを切に願います。 トウダイグサ属の植物は、面白いですね。 特に中心の杯状花序の形態や役割など、自分でわかっていないことも多く、興味をそそられます。
希少な植物へ案内していただきました岐阜県のOさんに、この場を借りて改めて御礼申し上げます。 ありがとうございました。 ご一緒いただいたHさんご夫妻にもコーヒーやおやつをわけていただいたり、お世話になりました。 またどこかでご一緒したいですね!
2015.05.06 掲載
さくら(桜) (木曜日, 07 5月 2015 09:00)
趣味人倶楽部からお伺いしましたさくらです。
ハギクソウ見せて頂きました。
写すだけなくつぶさに観察なさって感動しました。
又是非寄らせてください。
HiroKenのKen (木曜日, 07 5月 2015 19:27)
さくらさん、いらっしゃいませ!
星の数ほどあるお花のサイトの中から、当サイトにご注目くださり
どうもありがとうございます。
花の写真を撮っていると、「どうしてこの花はこんな形・色になったのかな?」と
興味が湧いてきます。
素人の範疇を脱却できませんが、少しだけ調べてみたことを書いています。
ブログを拝見しました。美しい写真ばかりですね!
花たちが生き生きとして、一枚一枚をとても大切に撮影されていると感じました。
今後も訪問させていただきます。
当サイトにもどうぞお気軽にお立ち寄りください。
はぎくそう (木曜日, 20 10月 2016 23:11)
初めて HP拝見。たくさんの角度から 美しく撮られ その1枚1枚に 植物に対する 深い愛情さえ感じました。 伊良湖に新しく整備された海浜植物見本園・さららパークで この22日に愛知県主催の親子イベントが開かれ、植物担当の講師として ハギクソウをぜひ紹介しなくてはと思っています。豊橋在住で 何度も写してますが 使えるような画像はなく もっと真剣に写さねばと大反省しています。これから 楽しみに拝見させていただきます 普佐子
HiroKenのKen (金曜日, 21 10月 2016 05:54)
普佐子さん、ご訪問とコメントをありがとうございます。
伊良湖は素晴らしい場所ですね。今年はニラバランを見ることもできました。
次を担う子供たちに、ぜひ植物の面白さや大切さをお伝えいただければと思います。
第3回「親子自然の魅力発信イベント」が大盛況となることを祈っております。
またのご訪問をお待ちしております。