2005年9月21日開催の日本植物学会で新種として発表された、とても新しい種です。 従来はツリフネソウと区別されていませんでした。 しかし渡良瀬遊水地近くの高校・養護学校で教員をされていた大和田真澄先生が、ツリフネソウとの形態的な相違点に疑問を持たれ、4年以上の歳月をかけて各地の標本などを調査されました。 その後愛知教育大渡邊幹男助教授らの協力も得て、遺伝子レベルでの違いも確認され、独立種として上記の発表に至ったそうです。
ワタラセツリフネソウには、ツリフネソウとは異なる、
形態的な特徴があります。 それは、私のようなシロウト
観察者にも明確にわかる特徴です。
ツリフネソウには、5枚の花弁があります。 上側に
ひさしのようになっている花弁が1つ、下側に大きく張り
出している2つの大花弁、そして大花弁の上にちょこんと
乗るように小さな小花弁が2つあります。 小花弁は基部
で大花弁と合着しています。
ワタラセツリフネソウは、この小花弁の先端部が黒っぽ
く萎縮しているのが、最大の特徴です。 小花弁全体の
形状もツリフネソウと異なります。 比較のため、ツリフ
ネソウの写真も載せます(#3)。
#3は、ツリフネソウです。 白い円内が小花弁です。イカの
脚のような形状で、先端部は萎縮せず尖って見えます。黒ずん
でもいません(クリックして拡大して下さい)。
もう一度#2のワタラセツリフネソウの小花弁を見ていただく
と、相違がおわかりになると思います。
#4 横顔でも小花弁先端部が黒く萎縮しているのが見て取れます。 渡良瀬遊水地に咲くツリフネソウ属は、すべてこのワタラセツリフネソウであり、普通のツリフネソウはいないそうです。
多くの人が訪れる場所で、大変目立つ美しさ。 しかも誰でも簡単に探せる花に、このような明確な形態的差異があるのに、なぜ最近まで別種であるかも知れないという疑問が持たれなかったのでしょうか? 大和田先生によると、それは「ツリフネソウとの違いが見落とされていたから」だそうです。
他人が気にもとめていなくても、自らの疑問を晴らすべく、大変な労力をものともせずに取り組み、ついには新種であることを証明された大和田先生の情熱には、敬意を払い、脱帽するのみです。
ワタラセツリフネソウには、花の内部の色と斑点の有無で、4つのタイプがあります。 花の内部が白一色のタイプと、一部黄色が混じるタイプ。 そのそれぞれに、斑点が有るものと無いものがあり、その組み合わせで4タイプが存在します。
①白色・斑点タイプ
②白色・無斑タイプ
③黄色入り・斑点タイプ
④黄色入り・無斑タイプ
今回は運良くその4つのタイプすべてを見ることができたので、下に写真を掲載します(#5〜#8)。 盛りの時期の少し前でしたが、2時間ほどの花さんぽですべて見つけることができました。 一つの群生の中に混在していますが、同じ株に異なるタイプの花をつけることはありません。 群生はあちこちにあるので、最初の群生で限られたタイプしか見つからなくても、諦めずに他の群生を探して調べれば、すべてのタイプを見ることができる可能性は少なくないと思います。
#9はある群生の一部を切り取った写真です。 この写真を4〜5枚並べた位の規模がありましたが、渡良瀬遊水地では特段珍しくない規模の群生です。 大きな群生は、ヨシ原の、特に日当たりの良い場所に多いようです。
ワタラセツリフネソウは、下記の場所で自生が確認されています(大和田先生のサイトより)。
渡良瀬遊水地(栃木、群馬)
埼玉県北本市・宮代町・さいたま市岩槻区
千葉県野田市・柏市
茨城県取手市・石下町
大和田先生は、ワタラセツリフネソウの情報を求められています。 もし渡良瀬遊水地以外で発見されたら、先生にご一報頂けると今後の研究の役に立ちますので、よろしくお願いいたします。 大和田先生のサイト(連絡先)は、ココです。 もし初めて渡良瀬遊水地に植物観察に行かれるのであれば、このサイトは「必見」です。 その中のワタラセツリフネソウのページは、ココ。
2011.10.05 掲載