中心部のクリーム色をした楕円形のものに、何かブツブツついています。 実はこのブツブツの一つひとつが花なのです。 このような穂状花序(すいじょうかじょ)の主軸が肉厚に膨らんだものを、肉穂花序(にくすいかじょ)といいます。 親戚のミズバショウは、もう少し細長い肉穂花序を持ちます。
肉穂花序を包みこむようにある、茶褐色や暗紫色の花弁に見える部分は、実は苞(ほう)です。 苞は蕾を包んでいた葉で、他の植物では小さく、あまり目立たないことが多いですが、サトイモ科の植物ではとても大きく、目立つ姿になります。 肉穂花序を包む、このような苞を仏炎苞(ぶつえんほう)といいます。仏炎苞は、サトイモ科の植物には多く見られます。
でも「仏炎苞」なんて、なんだか変ですね。 「仏様の炎の苞葉」? この名称の由来をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひお教え願いたいです。
いきなり専門用語ばかりで頭が痛くなりますね。 でもここからが本題です。 ザゼンソウは他の植物にはない(*1)、肉穂花序が「発熱する」というすごい特徴があるのです。 発熱時の温度は20℃程度ですが、花が咲いてからずっと発熱し続ける訳ではありません。
花は雌しべと雄しべが時間差をもって成熟する、雌雄異熟の両性花です。 先に雌しべが成熟し(雌性期)、その後雄しべが成熟する(雌性期)、「雌性先熟」の花です。 発熱は雌性期に発生し、雄性期に終わります。
雌性期には肉穂花序が常に20℃程度に保たれます。 外気温が−5℃でも、−10℃でも一定温度に保たれるのです。 もし外気温が−10℃であれば、発熱により30℃もの温度差を得ているということです。 また温度を一定に保つためのその「温度センサー」は肉穂花序にあるとわかってきたそうですが、その精度は、±0.9℃といわれ、とても高精度です。
(*1)ハスやヒトデカズラも発熱することが知られていますが、氷点下になるような低温下で発熱するのはザゼンソウだけだそうです。
ザゼンソウの肉穂花序には動植物の細胞にあるミトコンドリアが豊富に含まれています。 気温が氷点下になるようなときは、ザゼンソウは根に蓄えたデンプンと酸素をミトコンドリアで結合させることを活発化させることにより、発熱しているそうです。 発熱や温度制御のメカニズムやについては、専門に研究されている方がおり、徐々に解明されているようです。
ではなぜザ、ゼンソウは発熱するのでしょうか? 発熱時には、生臭い、肉の腐ったような悪臭(人間にとって)を発するそうです。 北米大陸にもいて、その臭いからなんと英名はスカンク・キャベツ(Skunk Cabbage)です。 虫の少ない時期に咲く花なので、臭いはその時期にわずかにいるハエの仲間をおびき寄せるためと考えられています。 このため発熱もハエ類をおびき寄せる目的があるのかも知れません。ハエも寒いよりは暖かい部屋で食事したいでしょうから。
上の写真は肉穂花序のアップです。 亀甲状の部分は、花被の上部です。 白っぽい花粉が出ています。 「ザゼンソウ」の名の由来ですが、仏像の光背に似た形の仏炎苞とその中の肉穂花序が、僧侶が座禅を組む姿に見えることから来たとされています。 また肉穂花序を達磨大師の座禅する姿に見立て、別名ダルマソウ(達磨草)とも呼ばれます。 確かに仏炎苞はお坊さんの着ている、襟の後ろ側がピンと立った僧服を連想させないでもありません。
固い話が続いたので、疲れましたね。 専門用語なんぞ覚えられないので、ザゼンソウの特徴を覚えるなら『暖房の効いた部屋で、生臭い息を吐く坊主が坐禅している』と覚えればいいです(本当か?!)。
仏炎苞が緑色をした個体もいます。「アオザゼンソウ」
として区別する場合があります。
ザゼンソウ (坐禅草)
サトイモ科 ザゼンソウ属
Symplocarpus renifolius
水湿地に生える多年草。 花序は葉に先立って開き、花茎は高さ10〜20cm。 肉穂花序は長さ約2cm。 葉は花後成長し長さ・幅とも40cmほどになる。
北海道と本州に分布。 花期は3〜5月。
2011.03.04 掲載
写真追加 2011.04.18
ペン (土曜日, 05 3月 2011 21:31)
HiroKenさん
ザゼンソウが発熱しているとは知りませんでした。これからは見る目が変わってくるような気がします。こちらでは早い株は1月下旬頃から咲き始めるので毎年見に行っています。いよいよ春ですね。
hanasanpo (日曜日, 06 3月 2011 05:50)
ペンさん
いよいよ春ですね〜。ザゼンソウは地味系の花ですが、すごい能力を持った驚きの花です。
ところでペンさんがコミミズクを見られた場所は見当もつかなかったのですが、先日偶然に同じと思える場所に行きました。あの、すご〜く広い所ですね?
ペン (日曜日, 06 3月 2011 20:16)
HiroKenさん
コミミズクはご察しのとおり、すご~く広いところです。最近はカメラマンがかなり来ているので、人を探せばポイントは分かります(^^;)。私たちはあの時はカメラマンの集団の近くには行かないで、少し上流の橋のところで待っていたら、すぐ近くを飛んでくれました。
hanasanpo (月曜日, 07 3月 2011 05:00)
コミミズクを追ってカメラマンの集団が土手を行ったり来たりしているのが面白かったです。でもコミミズクはかわいいというか美しいというか、カッコイイというか。あんな鳥が飛んでいたら、誰しも写真を撮りたくなりますね!私たちは望遠レンズを持ち合わせていなかったので、点のような大きさでしか撮ることができませんでした。
蛸地蔵 (日曜日, 22 3月 2020 09:44)
昔わが家の、庭に、あつたそうです。絶えてから、亡き父から、聞いたことが、あります。
HiroKen (日曜日, 22 3月 2020 22:26)
昔はもっと多くの場所にあって、身近な植物であったのだと思います。生育できる湿った環境が減っていることが、数を減らしている原因なのでしょうね。