全国各地の主に低地の林縁や草地にふつうに生える、高さ20〜50cmの2年草(越年草)です。 やや湿った木陰が好きなようです。 花期は4〜6月。 キケマン属の植物の中では、最もポピュラーな植物だと思います。 関東地方では、都市部の緑地帯や道ばた、郊外の自然公園や畑の脇などでもよく見かけます。 低地とはいえない標高900mを超える山地でも見かけました(#1)。
あまりにありふれているので、私たちはふつう撮影対象としてなく、花さんぽで見かけても「なんだ、ムラサキケマンか」とつぶやいてほとんどスルーしています。 しかし所変われば花変わる。 以前北海道から来られた花友さんが、「あっ、ムラサキケマンだ!」と喜んで撮影されていました。 全国どこでもワンサカ生えているというわけではないようです。
花の形が似ているヤマエンゴサクやジロボウエンゴサクなどは、地下に球形の塊茎をつくりますが、本種は塊茎をつくりません。 全体が柔らかく、茎はやや角ばり、葉があり、ときに分岐します。 下部の葉には長い柄があります。
茎に傷をつけると悪臭がするそうですが、傷つけたことはないのでそのニオイを嗅いだことはありません。
葉は根生と茎生の両方があり、柄があり長さは3〜8cm。 2〜3回羽状に細かく裂け、裂片は卵状くさび形で深い切れ込みがあります。 上から見ると#6のようになります。 同じ頃に咲く青紫色系の花をつける近縁種の植物には、細かく羽状に裂ける葉を持つものはないので、見間違えることはないでしょう。
花序は総状で茎の上部に直立し、紅紫色の花をやや密につけます。 花冠は筒状で長さ12〜18mm、一方が唇形状に開き、一方に距があります。 萼は2個で糸状ですが、非常に小さく、「これです」と示せる写真はありませんでした。 しかし、このページ下のシロヤブケマンの項では、萼片が写った写真がありますので、後で見て下さい。
花のつくりについては、近い仲間のヤマエンゴサクの花のつくりの項で示したので、ご参考にして下さい。
苞(ほう)は、花柄のつけ根の直下にある、小さな葉のようなものです。 ムラサキケマンの苞は、櫛の歯状に鋭く切れ込むのが特徴です。 苞の形状は、近縁種との識別に重要なポイントの一つです。
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シロヤブケマン
白藪華鬘 ケシ科 キケマン属
Corydalis incisa (Thunb.) Pers. f. pallescens Makino
ムラサキケマンの白花品は、2種類あります。 花弁の先端部のみに紅紫色が残り、他の部分は白色である品種をシロヤブケマンといいます。 花全体が完全に白色の品種は、ユキヤブケマンといいます。 #14〜#16はシロヤブケマンです。 分布域も含め、花色以外の特徴はムラサキケマンと変わりません。
次の#17・18は、シロヤブケマンで正しいか、非常に悩まされた個体です。
#17・18の植物の花を見て、シロヤブケマンではないかも、と感じた理由は以下の3点です。
①花冠の形状がムラサキケマンとやや異なる印象を受ける。 特に距の前半分がムラ
サキケマンシロよりも少し太く、ぽってり膨らんでいる感じに見えます...
②先端が濃い暗紫色で、ムラサキケマンにはあまり見られないような色である。
③先端がほとんど開口してなく、いわゆる「おちょぼ口」である。
もしシロヤブケマンではなかったとしたら、この植物は何なのでしょう? 考えられるのは、外来種(帰化植物)です。 そこで似た外来種を調べたら、以下の3種が候補に上がりました。 いずれもケシ科ですが、キケマン属ではなくカラクサケマン属です。 果たしてこれらの植物のどれかなのでしょうか。
・カラクサケマン 唐草華鬘 Fumaria officinalis L.
・ニセカラクサケマン 偽唐草華鬘 Fumaria capreolata L.
・セイヨウエンゴサク 西洋延胡索 Fumaria muralis Sond. ex W.D.J.Koch
これらの植物は見たことがなく、写真はないので、興味がある方はページ下の「参考にさせていただいた図鑑や外部サイト」から、外部サイトをご覧下さい。 これらの植物は、萼の形状と大きさに特徴があります。 萼片は卵円形で花冠と同色、花冠を挟み込むようについています。 そのサイズはとても大きく、長さは花冠の1/3〜1/2ほどにもなるそうです。 こちらの外部サイトにとてもわかりやすい画像があります。 そこで、今回改めてこの植物の萼を仔細に見直してみました。
今まで真剣に見ていなかっただろうと言われそうですが、#19の赤枠部を拡大して見たら、萼がありました! 次がトリミングした写真です。
#19の2個の花で、花冠と花柄の接続部に白っぽい糸状の萼片を、それぞれ2個づつ見つけました。 この形状は外来種のカラクサケマン属の植物とはまったく異なり、逆にムラサキケマンの萼の特徴と一致します。 従ってこの植物は、やや風変わりな印象はありますが、シロヤブケマンと断定して間違いなさそうです。 撮影してから12年後にようやくスッキリできました! 外来種の情報を掲載下さった、外部サイトの制作者の方々に感謝です。
ユキヤブケマンとは?
Corydalis incisa (Thunb.) Pers. f. candida Hiyama
#21・22の花は、当初ユキヤブケマンとしてよいのではないかと考えていました。 わずかに紫色が入りますが、花弁先端部は白色であることと、ネットで検索すると似たような花をユキヤブケマンとしているサイトがいくつも見つかったからです。
しかし、こちらのサイトに掲載された、全体が完全に白色のユキヤブケマンを見て、この花はユキヤブケマンではなく、シロヤブケマンであったと思った次第です。 シロヤブケマンはたまに見つかりますが、ユキヤブケマンはかなりレアなようです。 いつか見てみたいものです。
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< 参考にさせていただいた図鑑や外部サイト(順不同) >
文献・図鑑などの著作物や、個人・法人のWEBサイトにも著作権があることをご理解の上、ご利用下さい。
*1 日本の野生植物 草本2 離弁花類 平凡社 1982年3月31日 初版第3刷 p.125
*2 山渓ハンディ図鑑1 野に咲く花 山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.247
*3 牧野 新日本植物圖鑑 北隆館 1961年6月30日初版発行 p.201
*4 日本帰化植物写真図鑑 全国農村教育協会 2008年6月28日 第5刷 p.80
*5 Plants Index Japan(撮れたてドットコム) 比較画面 - エンゴサクの仲間
*6 YList 植物和名ー学名インデックス Papaveraceae(ケシ科)
*7 福原のページ(植物形態学・生物画像集など) ムラサキケマン
*11 四季の花庭へ ユキヤブケマン、シロヤブケマン、ムラサキケマン
*13 西宮の湿生・水生植物 ムラサキケマン
*14 花盗人の花日記 カラクサケマン (萼がよくわかる画像あり)
*17 熊本市水前寺江津湖公園 ニセカラクサケマン
*18 甲山森林公園の野鳥 キケマン属&カラクサケマン属
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最終閲覧:2022.04.10
2018.03.28 掲載
ムラサキケマンが掲載されたページ
Dairy-Hiroダス
花さんぽ
シロヤブケマンが掲載されたページ
Dairy-Hiroダス