川岸などの低地の草原や、山地の林縁などに生える多年草です。 本州の関東地方以西、四国、九州に分布します。 高さは10〜20cmで、似た植物であるヤマエンゴサクやオトメエンゴサクよりも小型で、繊細な印象です。 地下茎に球形で径約1cmの塊茎があり、そこから数個の根生葉と花茎を出します。 ヤマエンゴサクやオトメエンゴサクなどの近縁種は1本の茎を出しますが、本種は複数の茎を出します(1本のこともあり)。 花期は4〜5月。
ジロボウエンゴサク − 次郎坊延胡索 とは、変わった和名ですね。 和名の由来ですが、延胡索は漢名で、キケマン属の総称名です。 ヤマエンゴサクやエゾエンゴサクなど、この仲間の地下の塊茎を、漢方では延胡索といって、痛み止めなどの薬用にしていたそうです。 また、ジロポウ(次郎坊)は太郎坊(スミレ)に対する伊勢地方の方言名で、子供がお互いに花の距をからませて、ひっぱり合いして勝負することから来たそうです(*3,*4)。
あの小さな花の距で、本当にそんな遊びをしていたのかいな?と思ってしまいました。 茎を絡ませるならわかるのですが。 しかし多くの図鑑に書かれているので、この説で間違いないようです。
漢字表記が次郎坊なので、「ジロボウではなくジロウボウではないか?」と思われるかも知れません。 ネット上にはジロウボウエンゴサクと表記しているサイトも散見されますが、図鑑ではジロボウとしているので、当サイトもそれに従います。
尚、Y-Listでは別名ヤブエンゴサクとされていますが、同じY-Listのヤマエンゴサクでもヤブエンゴサクの別名があり、曖昧で混同の恐れがあるので、当サイトでは別名として扱わないことにしました。
花序の花数は少なめです。 自分で撮影した写真を見る限り、2〜7個ほどの花をつけますが、4〜6個のことが多いように思います。 花冠の長さは12〜22mm。 花色は淡い紅紫色〜青紫色ですが、わずかに褐色を混ぜたような地味な色合いです。 色が濃いのは花冠の先端部分だけで、個体差はありますが、距の部分はかなり白っぽい色になります。 まれに花全体が白色の白花もあるようです。
葉については、図鑑(*1)には次のように書かれています:
・根生葉は塊茎の頂端に少数ついて、2−3回3出複葉、長い柄がある。
・小葉はふつう2−3深裂し、裂片は長さ1−2cm、幅3−7mm。
・花茎は1球から数本ずつ出て長さ10−20cmとなり、柄のある葉がふつう2個つく。
なるほど、根生葉と茎葉があるのだね。 ではそれらが写った写真を載せよう... 写真は260枚ほど撮り溜めていたので、片っ端から見ていきます。 しかし、見つからない! 「これが根生葉。こっちが茎葉」と明確にわかる写真がないのです。 大体、この小さな花にピントを合わせて撮っているので、地面近くの葉など写っていないのです(言い訳)。 たとえ根生葉らしき葉が写っていても「もしかしたら茎葉かも」と思えてしまいます。 そんな中でようやく見つけた写真が次の#3です。
#3はやっと見つけた、根生葉が写っている写真です。 根生葉にピント合わせたので花がボケボケなのはご容赦下さい。「根生葉」と矢印で指している葉はジロボウエンゴサクの根生葉で間違いないと思うのですが... 図鑑の解説の「長い柄がある」に当てはまらないように見えます。 まだ若いからでしょうか? なんだか怪しい。
そして茎葉は? 矢印で示した部分しか茎葉らしきものはありません。 しかも2個ではなく1個ですし、柄がなく単葉です。 図鑑は「ふつう2個」と言っているので、ふつうではないケースなのか? しかし他の多数の写真を見ると茎葉には必ず柄があり、かつ複葉なので#3の「茎葉?」は、茎葉ではない可能性が高いと思いました。
どうにもスッキリせず、このページの作成が進みません。「こうなったら、実物を見に行くゾ!」と家を飛び出して一番近くの自生地に向かいました。 過去に撮影した場所では日陰のせいかまだ花茎も上げてなく、ガックリ。 しかしすぐ近くの日当たりがよい場所で元気に咲いていてくれました(#4)。 「これぞ、茎葉!」と思える葉が2個ついています。 図鑑の通りです。
さてこの茎を下にたどっていけば、地面近くにある根生葉とご対面です。 ワクワクしながら根元の他の草や落ち葉を除いていくと... アレ〜?! 根生葉がない! 何もない! 地面から茎が立ち上がっているのみでした。 周辺の株も同様でした。 少しショックでしたが、ないのだから仕方がない。
帰宅していろいろ調べると、ある外部サイトで採集されたジロボウエンゴサクの写真があったのですが、根生葉がないのです。 説明に「この個体は日陰に生えていたためか、根生葉が見られず、花茎のみが見られ、茎に2枚の葉をつけているのみだった。」とありました。 根生葉がないこともあるのだとわかり、ちょっと安心しました。 この外部サイト(*7)の上から3枚目にその写真があります。
根生葉を示す写真は諦めようと思った矢先、写真#5が見つかりました。 実は撮影時の露出を失敗した写真で、非常に暗い画像だったのでサムネールを見ても気づかなかったのでした。 目一杯補正を加えて、なんとか見られる画像になりました。
根生葉と茎葉がしっかり写っていました! 根生葉に長い柄がある、茎葉は2個、など図鑑で述べられていた特徴と合致します。 こうして見ると、葉の裂け具合などは根生葉と茎葉はとてもよく似ていました。 なかなか見分けがつかないはずです。 花は、若くてまだ開花しきれていない状態です。
とにかく説明できる写真が見つかってよかったです。 尚、葉柄や葉はもちろん、全体が柔らかくとてもデリケートなので、もし観察時に触れる場合は、そお〜っと触れてあげて下さいね。
花冠は筒状で、一方が唇形状に開き、一方に距があります。 花の特徴については上で述べました。 花のつくりについては、同じキケマン属のヤマエンゴサクの項をご参照下さい。 つくりは基本的に同じです。
この後は、いろいろな姿の花を見ていただこうと思います。 上の#6は、白い距がすっとまっすぐ後方に伸びて、先端部の色合いも淡く上品な美人さんです。 正面を向いた花は、きょとんとこちらを見ているようで、かわいいです。
#7は、花冠の先端部の色が濃い個体。 きれいです。
#8は、距が大きく湾曲し、まるですごくカカトが高いハイヒールの、カカトを取っちゃったような形です。 先端も平たく潰れていて、美人さんとは言えませんな。
次にもっと花に近づいて、いろいろな方向から見てみます。
最後に、苞について述べます。 苞( 苞葉:ほうよう ともいう)は、花がつぼみのときには、つぼみを包み守っています。 開花後は花柄のつけ根の直下にあり、小さな葉のように見えます。 とても小さく、また花の陰になってしまい写真に写らないこともしばしばです。
しかし、よく似た仲間との識別のために、苞の形状を観察することは重要なのです。 例えば、本種はしばしばヤマエンゴサクと混生していますが、両種ともよく似ており、識別は難しいです。 しかし苞の形状に特徴があります。 ヤマエンゴサクの苞には切れ込みがありますが、本種の苞には切れ込みがなく、全縁なのです。 これは識別の重要な手がかりになります。
上に掲載した写真のいくつかにも苞が写り込んでいますが、もっと大きな写真で見てみましょう。
#14で矢印で示した部分が苞です。 苞はひし形の卵形で先が尖り、切れ込みがありません。
#14〜#17で見てきたように、ジロボウエンゴサクの苞には切れ込みがありません。 最後の写真#18は、ヤマエンゴサクの苞です。 しっかり切れ込みがあるので、ジロボウエンゴサクと間違えることはありませんね。「迷ったら苞を見ろ」です。
< 参考にさせていただいた図鑑や外部サイト(順不同) >
文献・図鑑などの著作物や、個人・法人のWEBサイトにも著作権があることをご理解の上、ご利用下さい。
*1 日本の野生植物 草本2 離弁花類 平凡社 1982年3月31日 初版第3刷 p.125
*2 山渓ハンディ図鑑1 野に咲く花 山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.247
*3 牧野 新日本植物圖鑑 北隆館 1961年6月30日初版発行 p.201
*4 野草大百科 北隆館 1992年6月15日 初版発行 p.312
*5 Plants Index Japan(撮れたてドットコム) 比較画面 - エンゴサクの仲間
*6 YList 植物和名ー学名インデックス Papaveraceae(ケシ科)
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最終閲覧:2020.05.20
2018.03.28 掲載