ニリンソウ
二輪草 キンポウゲ科 イチリンソウ属
Anemone flaccida F.Schmidt
ニリンソウは4ページ構成になっています。
1. 二輪草だが2輪ではないことも
山野の林内や林縁の湿った場所に生える、高さ15〜25cmの多年草です。 北海道から九州まで分布し、花期は4〜5月頃(*3,*4)。 この時期に丘陵地帯や山麓で出会うことが多い、代表的な山野草のひとつです。 山野草にあまり興味がなくても、ニリンソウの名前だけは聞いたことがあるという方も多いのでは。 但し数は減少し続けており、地域によっては絶滅危惧の指定を受けています(*8)。
初夏が訪れる前までに、出芽・葉の展開・開花・結実を行ったのち、地上部は枯れてなくなり、休眠状態に入ります。 秋には翌年のための芽の形成を開始します。 春先の短い間だけ出現し花を咲かせては地上部が消える、スプリング・エフェメラルともいわれる、典型的な春植物です(*5,*6)。
種子による繁殖の他に、地下茎を伸ばして栄養繁殖でも増えるので、群生することが多いです(*4,*5)。 群生するとやや濃い緑色の葉を展開し地面が見えないほどになり、そこに白い花をたくさん咲かせるので、とても目立ちます。 ニリンソウの群生は、春の訪れと、本格的な花シーズンの始まりを感じさせてくれます。
ニリンソウ(二輪草)の名は、同じ属で一輪の花をつけるイチリンソウに対してつけられたそうです(*1)。 ところが常に2個の花をつけるとは限らず、1〜4個の花をつけることがあるそうです(*2)。 図鑑によっては「2〜3個の花をつける」とあります(*3,*4)。 筆者の経験では、2個または3個の花をつけたものばかりです。
これまで自分たちが撮影した写真をチェックしましたが、1個または4個の花をつけていると明言できるものはありませんでした(ミドリニリンソウを除く)。 1個・4個の花をつける個体とは、縁がなかったようです。
さて、2個または3個の花をつけるといっても、それらは同時に咲くのではなく、時間差をおいて開花します。 どれくらいの時間差があるかというと、ある程度幅があり一概にいえないのですが、およそ7日ほどのようです(*6)。 第1花(1番めに咲いた花)が見頃の状態のとき、第2花・第3花はまだ咲き始めや、ツボミの状態であることも少なくありません。
しかも第2花〜第3花のツボミは、まだ花柄すら伸ばしてなく、第1花の花柄の根元に慎ましやかについている状態も多いので、よく見る必要があります。
そのような性質がある中で、写真#6は、2個の花がよい状態で咲いています。 まさにニリンソウの名に恥じない個体です。 第2花は後から咲いたので第1花より花柄が短い。 しかし上に述べたように、このような状態の花を見つけるのは、時期によっては、意外と難しかったりするのです。
ちなみにトップ写真#1は花が2個ありますが、別の株の花がたまたま寄り添っていたものです、ゴメンナサイ m(_ _)m。 見栄えがよかったので使ってしまいました。
#7は3個の花をつけています。 第1花は見頃の状態、第2花は半開き、そして第3花はツボミです。 このような状態の花を見る機会も多いと思います。 ところで第2花は紅色を帯びていますが、萼片が紅色を帯びることは珍しくありません。
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#8も3個の花をつけています。 まだ開花間もない様子です。 第1花と第2花は似たような状態に見えるので、さほど時間差をおかずに開花したようにも見えす。 第3花のツボミも開花が始まっています。 もしかすると、数日後には3つの花がよい状態で咲き揃ったのたかも知れません。
ところで、なぜ花を一度に咲かせずに、時間差をつけて咲かせるのでしょうか? 一度にたくさんの花を咲かせたほうが、送粉者の昆虫のよい目印になり、見つけられやすくなると思います。 また開花している花がたくさんあるほど、昆虫が花から花へ飛び回りやすく、その分、受粉できる可能性も高まるハズです。
しかしニリンソウが選んだのは、別の方法でした。 もし持てる資産を一気につぎ込んで一斉に花を咲かせたとしても、万一気温その他の気象条件や他の原因で送粉者がまったく訪れなかったら、群生すべての花が受粉に失敗するのです。 ニリンソウは自家不和合性(自家受粉で結実しにくい)があるので(*5)、そんなことが起きたら一大事です。 一帯の花すべてが、その年は種子による子孫を残すことができないという、最悪の事態になってしまいます。
もちろん多年草ですから、種子が1つもできなくても次の年にまた花を咲かせることはできます。 しかし植物の生きる目的はただ一つ「できるだけ多くの子孫をできるだけ広範囲に残す」ですから、それに反する結果になる可能性があることはしません。 植物は賢いので、ハイリスク・ハイリターンの大バクチは打たないのです。
花を時間差をつけて咲かせれば、もし第1花が咲いたときに受粉できなくても、第2花が咲く頃には、事態が改善している可能性が高まります。 万一それがダメでも、数は少なくなりますが第3花も控えています。 このように、時間差をつけた開花は、ニリンソウのリスク・ヘッジ(起こりうるリスクの程度を予測して、リスクに対応できる体制を取って備えること)なのだと思います。
ただし結実率は後の花ほど落ちるので(*5)、第1花に多くの資産を投資していると思います。 第1花で受粉が成功することを一番期待しているのですね。 第2・第3花は、万一のときのバックアップ的な役割なのだと推測します。
古い写真で3花とも開花している状態を見つけました。 #9の第3花は、背後の別の花と重なってしまっています。 #9、#10とも2004年、今から14年も前の撮影です。 元々低解像度の上にトリミングでかなり低画質ですが、ご容赦下さい。
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