以前はウスバサイシンとされていました。 2007年にウスバサイシン節が細分化され、イズモサイシン、トウゴクサイシン、そして本種が新種として発表されました。 ウスバサイシン節は、以前より分類されてたウスバサイシン、アソサイシン、オクエゾサイシンとクロフネサイシンと合わせ、7種が分布することが明らかにされたのです(*1)。
葉は卵心形で、先は急にとがります。 基部は深い心形〜耳型でした。 本種はカンアオイ節の植物と異なり、常緑ではありません。 秋に落葉します。
関東北部に分布します。 花期は5〜6月。 葉の
表面は葉脈の凹みが目立ち、少し光沢があります。
花は地面スレスレに、でも地面にくっつかない程度の高さに横向きにつけていました。 花弁はなく、花に見えるのは萼です。 花柄の先に樽のような形の萼筒があり、萼筒の先は裂けて3個の萼裂片があります。 萼裂片は、三角状卵形で、やや波打ちます。 先端はややとがり、指でつまんだようになりますが、それはトウゴクサイシンのように際立ったものではありません。
ここで見られた花の色は、大きくは暗紫色の花と淡緑色のものがありました。 上の写真は暗紫色のものですが、わずかに見えている萼裂片の外側は緑色に見えます。
こちらは、緑色が強いタイプの花。 色み以外は暗紫色の花と変わりないように見えます。 萼筒開口部のつば状の環はありません。
ところで、ネット上には萼筒上部が強くくびれ、「萼筒開口部が萼筒外径の半分未満であることが特徴」といった記述が複数ありました。 本当だろうか? 写真で確かめてみることにしました。 使っている画像処理ソフトには画像の任意の2点間の距離を測るツールはなかったので、やむなく画面全体に細かな格子状のグリッドを表示させ(上では表示を消しています)、グリッドの数を数えることで、萼筒開口部 aと萼筒外径 bの寸法を測りました。
その結果は a ≒ 0.45b であり、確かに開口部は萼筒外径の半分未満であることが確認できました(スッキリ!)。 上の写真は真横からの撮影ではなくやや斜めであり、その分萼筒外径はわずかに小さめに写っていると思われますが、その分を差し引いても同様な結果になると思います。
緑色の花も、萼筒内面は暗紫色でした。 花の直径は1〜1.5cmほど。
葉柄は基部付近では角張っていて、稜の部分に細かな白毛が生えています。
暗紫色と緑色の両方の花をつけている株もありましたよ。
花の色は株の個体差によるものではないのかも知れません。
上の写真では、萼筒上部が強くくびれた様子がよくわかります。 本種の大きな特徴の一つですね。
ミクニサイシンは2007年に発表された新しい種なので、現状では入手できる情報がとても乏しいのです。 2013年3月発行の「山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花」にも掲載されていませんでした。 ネット上でも扱っているサイトが少なく、しかも「萼筒内壁が紫色にならないのが、ミクニサイシンの特徴」と解説があるのに、そこに掲載されている写真は萼筒内壁が紫色に見えたりして、私のような素人は混乱してしまいます。
あまりに情報がないので、新種発表されたときの論文(*1)を入手しました。 今現在、世の中で一番詳しくミクニサイシンについて書かれた文献であるに違いありません(もちろん、イズモサイシンとトウゴクサイシンについても)。
...しかし、英語です! 和訳しないと意味がわかりません。 上の写真では5ページ分しか表示していませんが、実際は27ページもあるのです。 和訳はいつ終わることやら? でもどんなことが書かれているのか、ちょっとワクワクしています。 和訳が進んで興味深いことがわかったら、このページで紹介していきたいと思います。
(*1)
A Taxonomic Study of Asarum sect. Asiasaru]m(Aristolochiaceae) in Japan
「日本産カンアオイ属ウスバサイシン節の分類学的研究」
植物研究雑誌 The Journal of Japanese Botany
Vol.82 No.2 (April 2007) p.79-105掲載
2015.12.26 掲載