スルガジョウロウホトトギス
駿河上臈杜鵑草 ユリ科 ホトトギス属
Tricyrtis ishiiana var. surugensis T.Yamaz.
日本固有種 絶滅危惧1B類(Endangered)
山中の、湿り気のある崖から下垂する多年草です。 神奈川県に咲くサガミジョウロウホトトギス(相模上臈杜鵑草)の変種とされており、より小型だそうです。 相模に対して、駿河。 静岡県の限られた場所でしか見ることができません。
下向きに花をつけるジョウロウホトトギスの仲間は、初めて見ることができました。 今回は静岡県の花友さん(といっても大先輩)のMさんご夫妻に案内していただき、労せずして念願の花を見ることができたのです。 この場を借り、改めて御礼申し上げます。
数は多くないですが、薄暗い渓谷の中
で、明るい黄色の花が輝いていました。
見頃のピークを過ぎた株もありましたが、
まだツボミの株も少なからずありました。
低い位置に咲いていてくれた株がありました。 花数は少ない
ですが、じっくり観察できました。 なかなかのべっぴんさんで
す。 花は細い釣鐘型です。
花被は内花被と外花被から成り、それぞれ3片あります。 花被片の先端付近には、トゲ状の突起がありました。 外花被のトゲ状突起は緑色がかっていて、大きいので目立ちます。 内花被のトゲ状突起は非常に小さく、花被と同じ黄色です。
上の写真中央の花は開花前のつぼみで、外花被片だけ見えます。 まるで外敵の侵入を拒むかのように、トゲ状突起を3方に向けています。 やはり、美しい花にはトゲがある?
トゲ状突起は、このような形状をしていました。
茎・葉も含め全体に無毛です。 葉は互生します。 葉の基部には
両側に耳片があり、茎を抱きます(矢印部)。 母種サガミジョウロ
ウホトトギスやキイジョウロウホトトギスも同様に耳片がありますが、
ジョウロウホトトギスには片側にしか耳片がないそうです。
苞の様子です。 苞に縁毛はないように見えました。 サガ
ミジョウロウホトトギスでは、苞が重なり気味になるそうです。
サガミジョウロウホトトギスを見たことがないので、自分では
何とも言えません。
外花被片の基部には距があります。 サガミジョウロウホトトギスでは、距は5〜6mmですが、本種は2mmほど、と図鑑にあります(*1)。 なるほど距は小さかったですが、測ってみなかったので本当に2mm程度であったかは不明です。 また、この識別方法は不十分という説もあるようです(*2)。
花の内部です。 紫褐色の斑点が多数あります。
花は下向きに咲くので、上の写真は上下逆になっています。 花柱は3裂して放射状に広がり、さらに先端がY字形に2裂し、柱頭となります。 花柱にも紫褐色の斑点があり、また丸い水滴のように見える、腺毛状突起が多数あります。 宝石みたいできれいですね。 この腺毛が花柱の下部まであるのがスルガジョウロウホトトギスで、サガミジョウロウホトトギスでは下部にはないという調査結果がありますが(*2)、花を分解しないと確認できません。
花糸は6本で、基部では花柱と密着し、先端では花柱と同様に放射状に広がります。 葯は赤褐色で、外側に向けて裂開します。 雄性先熟の花なので、花被が開く前に葯は裂開しているそうです。 送粉者は、トラマルハナバチだけだそうです(*3)。
ジョウロウホトトギスの仲間はいずれも数が少ないですが、本種も絶滅危惧1B類に指定されている希少植物です。 元々数が少ないところに、盗掘により危機的に数を減らされているのが現状のようで、とても残念です。 花は見るだけ、絶対に持ち帰ってはならないですね。
参考文献
文献・図鑑などの著作物や、個人・法人のWEBサイトにも著作権があることをご理解の上、ご利用下さい。
*1 平凡社 日本の野生植物Ⅰ (1982)
*2 神奈川県植物誌調査会 FLORA KANAGAWA No.5 (1980)
*3 高橋 弘 キイジョウロウホトトギスとスルガジョウロウホトトギスの花部生態学 (1993)
2015.01.23 掲載
みすちる (土曜日, 24 1月 2015 09:57)
私もサガミジョウロウホトトギスを昨年、やっと見ることが出来てとても感激しました。
スルガジョウロウホトトギスもあることをその時知りました。
とても狭い範囲に咲いているんですね。
hanasanpo (土曜日, 24 1月 2015 12:24)
サガミジョウロウホトトギスを見ることができて、よかったですね!
やはりスルガとよく似ているのでしょうか。
私たちも見てみたいのですが、噂ではヒルが多い場所を
行かなければならないとか...
ヒルにひるんで、まだ探索していない状況です。
らんジイ (金曜日, 11 9月 2015)
沢山の写真を拝見させて頂きました。
サガミを何回か見に行っていますが、苞の様子や花弁の先など違いがよくわかりました。大株になった株の花は茎の先端に2.3輪付き、2.3節めが付かず4節目から1輪づつ咲くようです。
山草ブームが去った今は盗掘が減ったようで、このごろは鹿が食べているのか彼らのコースと首が届く範囲がやられています。沢沿いの岩肌に群落があるらしいのですがいまだに見ておりません。沢歩きの人たちは見ているようですが、体力の無くなった小生には無理なようであきらめています。
HiroKenのKen (金曜日, 11 9月 2015 22:58)
らんジイ様
ご訪問とコメントをありがとうございます。
サガミを大変詳しく観察されているのですね。
私たちはまだ見たことがありません。見てみたいものですが、山登りは大の苦手ですし、ヘルメットを被って沢登りなど、絶対にできそうにありません。
盗掘は論外ですが、最近はどこでも鹿の被害が無視できないものになっているようです。これも難しい問題ですね。
スルガは、サガミと比べるとずっと楽に見ることができるのでは?と思います。
(私たちも大先輩のご案内で行くことができましたので)