スナビキソウ

 

砂引草 ムラサキ科 キダチルリソウ属

Heliotropium japonicum

写真1 スナビキソウ (砂引草) ムラサキ科 スナビキソウ属  2011.06.11 新潟県 
写真1 スナビキソウ (砂引草) ムラサキ科 スナビキソウ属  2011.06.11 新潟県 

 

 今年(2011年)はぜひスナビキソウを見たくて、早くから情報を集めて準備していました。 先月は自生の情報がある千葉県の海岸に出かけたのですが、花はもちろん、葉すら見つけることができませんでした。 絶えてしまったのかも知れません。 太平洋側はあっさり諦め、今回は日本海側に期待を寄せて新潟県にやって来ました。 結果は期待通りで、初めに訪れた海岸でスナビキソウに出会うことができました!

 

 砂浜は平坦で低く、高波が来れば簡単に海水に浸かってしまうであろう場所です。 この植物が海水で何度も塩漬けになっているのは間違いないと思います。 高波が引いて雨が降りだせば、真水で洗濯です。 塩漬け状態から塩分濃度が激減するでしょう。 その急激な変化に耐えなければなりません。 雨が上がり雲間から太陽が顔をだせば、遮るものが何もない砂浜では、強烈な紫外線にさらされます。 強い紫外線は植物の細胞を破壊する力を持っています。 日照りが続けば、高温にさらされ続け、砂浜は乾燥し、砂漠のような環境になるでしょう。 その間にも海からは絶えず強い潮風が砂粒とともに吹きつけます.... 海岸は高山とはまた違った意味で、非常に過酷な環境であると言えます。

 

 海岸植物を見ると、いつもこのようなことに思いを巡らせてしまいます。 小さく可愛らしい花を咲かせるスナビキソウですが、実はとんでもなく厳しい環境を生き抜いている、ものすごい植物なのだと思うのです。

 

写真2 スナビキソウ
写真2

 

 写真2 が初対面の株です。 砂浜の中にぽつんと咲いていました。

花の数は少ないですが、立派なスナビキソウ。 とても上品な白い

花です。花冠は5裂します。まさに砂上の★(星)です。 

 

 浜への降り口から数十メートルの場所にいました。 しかし周りを

見回しても他の株は見つかりません。 個体数は想像していたよりは

るかに少ないのかも知れないと、不安がよぎります。

 

 しかし、この株だけということはありませんでした。 300メート

ルほど離れた場所で、先遣隊のHiroがある程度まとまって咲いてい

る場所を見つけたのです。

 

写真3 スナビキソウ
写真3

 海から続く砂浜の奥に、台地状に70cmほど高くなった領域があり、そこにハマヒルガオやハマボウフウといった海岸植物と一緒に咲いていました。 正確に数えた訳ではありませんが、30株ほどはいました。 「とても少ない」と感じましたが、この海岸の過去の状況はわからないので、なんとも言えません。 また他の場所にいないとも言えません。 二人で数時間で調査するには、ちょっと広すぎる海岸です。

 

写真4 スナビキソウ
写真4

 

 写真4は複数の株が固まっているのでしょうか、それとも

一つの大きな株なのでしょうか? わからないのですが、

茎頂に花をつけていないものが約半数いました。 他の株で

も花をつけていないものがありました。これが普通の状態な

のでしょうか? わかりません。

 

写真5 スナビキソウ
写真5

 

葉の両面に伏毛が生えています。 裏面では

脈上の毛が長いように見えました。

 

写真6 スナビキソウ茎の毛
写真6

 

茎や萼にも写真6のように長い毛が生えています。

 

写真7 スナビキソウ
写真7

 

 花の経過を見た訳ではないですが、花の寿命は長くないと

思います。 花の縁から茶色く変色していくようです。 し

かし写真7のように、完全に枯れてしまい茶色く縮れた花が

ある一方、まだ蕾の状態の花もあります。少しづつ開花の時

期をずらし、順番に咲いていくようです。 あっ、左下の花、

6裂していますね。

 

写真8 スナビキソウ 6裂花
写真8

6裂した花のアップです。

 

写真9 スナビキソウ
写真9

開きかけの花が、なんともかわいいです。

 

 

 スナビキソウについて、ぜひ述べておきたいことが二つあります。

一つ目は、その香りです。  すばらしい香りでした。この事を知ら

なかったので、返って感激しました。

 もしスナビキソウに出会えたら、ぜひとも腰を下ろして、香りを

楽しんでいただきたいと思います。  私の「嗅いでビックリ、素晴

らしい香りの花ベスト10」に間違いなく入る花です。

 

 もう一つは、アサギマダラとのカンケイです。 ものすごい長距

離の「渡り」をするチョウ、アサギマダラ。 スナビキソウは、アサ

ギマダラの食草の一つであるようなのです。  残念ながら今回はま

ったくアサギマダラを見ることはできませんでした。 おそらく時

期が合わなかったのだと思います... あるいは、天候のせいだったの

か(雨は降っていなかったのですが)。

 

 アサギマダラとスナビキソウの関係については、アサギマダラの

ページで少し紹介しているので、もし興味があればご覧下さい。

 

 

 

スナビキソウ

 

海岸の砂地に生える高さ30cmほどの多年草。葉は互生し長さ2.5〜6.0cmの倒披針形〜長楕円状披針形で厚く、両面に伏毛がある。茎の先に短い花序を出し白色の花をつける。花冠は直径約8mm、筒部は6〜7mmで、先は5裂して半開する。子房が裂けないで、核果をつくるのが特徴。核果は長さ0.8〜1.0cmの4稜形。外側はコルク質で、種子は海水に浮かんで散布される。和名は砂の中に長く地下茎を伸ばして増えることによる。北海道〜九州に分布。花期は5〜8月。


2011.06.15 掲載

 

コメント: 9 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    あひる (木曜日, 16 6月 2011 11:14)

    スナビキソウ、白い柔らかそうなお花ですね。
    わぉ! 塩漬けと真水洗浄と、過酷な環境なんですね(T_T)
    そんな過酷な環境に耐えているとは、微塵にも見えないです。
    ふくよかな、ふわっとした感じに見えます。

    葉っぱなんて、柔らかくて、おひたしによし、炒めものによしって感じで、 
    お  い  し  そ  う (~ρ~)ジュル
    アサギマダラちゃんが食べれるんなら......( ̄▽ ̄;)

    香りいいのですか! クンクンしたい。
    チンチョウゲとちょっとお花の形が似ている様な~。
    種は、波に乗って運ばれるの!
    ロマンチック。
    名も知らぬぅ遠き島よりぃ流れ寄る♪スナビキソウの実ひとつぅ~~♪ 
    って、見えんやろなぁ。

  • #2

    hanasanpo (木曜日, 16 6月 2011 21:40)

    確かに! スナちゃんの葉っぱはおいしそうですね〜
    生のままフレッシュサラダに、湯がいてバターソテーに...
    なんでもおいしそう!

    いえいえ、いけません! スナちゃんには肝毒性のあるピロリジジンアルカロイドがたっぷり。でもこの物質、フキにも含まれているから、同じように灰汁抜きをすれば食べられるかも?
    スナちゃん好きのアサギマダラは、この毒を体に溜め込むとか。敵から身を守るためとか、オスが放出する性フェロモンの原料にも使われているそうです。 奥が深いですね〜

    種子を海流に運ばせて広く分布する植物をコスモポリタンというのですね、
    スナちゃんもコスモポリタンだそうですが、それにしては千葉県にはいなかったな〜

  • #3

    おくちゃん (木曜日, 16 6月 2011 21:41)

    茎や葉にある長い毛は
    塩水から茎や葉身を守るための物じゃないかな
    そんなことをふと思いました。

    σ(^-^)も来年当りは海岸でビューしたくなってきたよ!

  • #4

    かのん (木曜日, 16 6月 2011 22:37)

    スナビキソウは良い香りがするんですか。
    じっくり観察してこそ分かったその香り、さすがです!

    浜辺のジャスミンですね。
    画面からいい香りがするような気がします。



  • #5

    hanasanpo (金曜日, 17 6月 2011 00:10)

    おくちゃん、こんばんは〜!
    おっしゃるとおり、長く密生した伏毛は、きっと厳しい環境に適応するために獲得したものなのでしょうね。
    スナビキソウ、来年はぜひご覧になってください!

    おくちゃんのホームページの天生湿原の写真を拝見しました。ものすごい花の種類ですね! 垂涎ものだらけ!
    8枚目の「すりガラス状態」になったサンカヨウ、あの状態が見たいのに一度も見ることができていません(´_`。)グスン
    一度霧吹きを持ち込み、沢の水を吹きかけてみましたが、ただしょぼくれた姿になっただけで、すりガラス状にはなりませんでした。濡れてからある程度時間をおかないと、あのようにならないのですかねえ?

  • #6

    hanasanpo (金曜日, 17 6月 2011 00:25)

    かのんさん、ありがとうございます。
    スナビキソウの香りは、ゆっくりと深呼吸しながら、胸の奥の奥まで吸い込みたくなるような良い香りでした。あの香りが好きじゃないという人は、きっとほとんどいないと思います。

    花の香りと言えば、サラシナショウマの香りを嗅いだことは、おありですか? 思いがけず、ダークホース的な(?)素晴らしい香りです。 あとはですね、ショウキラン! 腐生ランがこんなに良い香りを放つとは知りませんでした。ただの良い香りではなく、なんというか...妖しさを秘めた香りです。(香りは表現が難しいです)

  • #7

    かのん (金曜日, 17 6月 2011 07:09)

    おはようございます。

    サラシナショウマがいい香りがするなんて、全然知りませんでした^^
    いつも写真を撮って終わり!でした。

    ショウキランもですか。
    上高地で一度見ましたが、足元だったのでやっと写真を撮っただけでした。

    これからは一応何でもクンクンさせてみますね(笑)

    そろそろ色々なショウマの季節になりますね。
    先日の山でも蕾をつけていました。

    今日も雨ですね。
    体調を崩さないようお過ごしください。

  • #8

    あきこ (土曜日, 18 6月 2011 10:41)

    すなびきそう、出会えてよかったですね。
    私も、日本海側で、海もすぐ近くですから、よく見かけます。
    高山の植物も大変と思ってたけど、海の花も潮風にさらされて、厳しいですね。

    とても、綺麗に撮れてますよ

  • #9

    hanasanpo (土曜日, 18 6月 2011 14:41)

    あきこさん、ありがとうございます。

    日本海側の海岸植物の観察には、うってつけの場所にお住まいなんですね!
    日本海側はまだ新潟県しか行ったことがないのですが、海岸近辺も山も、とても花が多いと感じます。
    関東で見られる花と同じ種類でも、ずっと大きかったり色が濃かったり。

    バシクルモンの南限はやはり柏崎あたりなんですかね? 今回柏崎より少し北で見ることができましたが、予想通り花期には早過ぎました。