オトメエンゴサク

 

乙女延胡索 ケシ科 キケマン属

Corydalis fukuharae Lidén

#1 オトメエンゴサク (乙女延胡索) ケシ科 キケマン属
#1 オトメエンゴサク (乙女延胡索) ケシ科 キケマン属

 

 本州の中部地方以北の、湿り気のある林内や林縁に生える多年草です。 地下に球形で径1〜2cmの塊茎があり、春先にそこから地上に茎を一つ伸ばして花を咲かせます。 高さは10〜25cm。 主に冷温帯に分布。 花期は4〜5月。

 

#2 オトメエンゴサクの葉は1〜3回3出複葉  小葉の形状は変異が大きい
#2 オトメエンゴサクの葉は1〜3回3出複葉  小葉の形状は変異が大きい

 

 葉は1〜3回3出複葉で、小葉の形状は線形から卵円形まで、個体間の変異が大きいです。 地上部が存在するのは茎を出してから2ヶ月半ほど、落葉広葉樹の若葉が出始める頃には枯れてなくなってしまいます。 残りの9ヶ月半ほどの期間は、地下茎の状態で過ごします。

 

#3 オトメエンゴサクの花弁は4つ 外側上部の花弁の後部は距となる
#3 オトメエンゴサクの花弁は4つ 外側上部の花弁の後部は距となる

 

 花色は青色~青紫色で個体差があります。 春の清々しい空気に相応しい、爽やかな青が多いですが、後半で示すように白っぽい花もあります。

 

 花冠は筒状で、一方が唇形状に開き、一方に距があります。 花弁は全部合わせて4個あります。 2個は外側で、上側の花弁の後部は長い距となります。 下側の花弁は先端から花柄のつけ根まで。 内側の2個の花弁はほとんど外側の花弁に包まれて見えず、先端のみ覗いています。 内側の2個は左右に並び、先端は合着したようになっています。 花のつくりは、ヤマエンゴサクのページでもう少し詳しく説明しているので、ご参照下さい。>>こちら

 

 距はまっすぐ後に伸びて先端がやや下垂していたり、上に反り返っていたりと様々です。 しかし#3のように上に反り返っていた方が、鯱(しゃちほこ)みたいでカッコイイと思いました。

 

 ところで、「オトメエンゴサク? 聞いたことない」そう思われる方も少なくないと思います。 以前は、エゾエンゴサクと呼ばれていた植物です。

 

 近年の研究により、2009年にエゾエンゴサクの学名が見直されました。 従来のエゾエンゴサク(Corydalis ambigua Cham. et Schltdl.)は国内に分布してなく、北海道に分布するものは Corydalis fumariifolia Maxim. subsp. azurea Lidén et Zetterlund とされました。 北海道は昔蝦夷と呼ばれたので、和名はエゾエンゴサク(蝦夷延胡索)で変わらず。

 

 一方、本州に分布するエゾエンゴサクは、長年に渡り北海道に分布するものと同じとされてきましたが、これも別種であることが判明し、学名は Corydalis fukuharae Lidén となり、新たにオトメエンゴサク(乙女延胡索)の和名が与えられました。 北海道のものと区別するために和名を与えたと思われますが、「乙女」の由来は調査中です。

 

 当サイトで従来エゾエンゴサクとして掲載していた植物は、すべて本州で撮影したものなので、上記の変更に従い「オトメエンゴサク」に名称変更しました。

 

#4 オトメエンゴサクの苞には切れ込みがない(矢印部)
#4 オトメエンゴサクの苞には切れ込みがない(矢印部)

 

 オトメエンゴサクと似た植物にヤマエンゴサクなどがありますが、苞の形状が識別の手助けとなります。 ヤマエンゴサクの苞には切れ込みがありますが、オトメエンゴサクの苞は卵形で、普通は切れ込みがなく、全縁です。

 

 #4の矢印の部分が苞です。 花柄のつけ根の直下についた、緑色の小さな葉のような部分です。 苞は小さい上に、位置的に花に隠れてしまいがちなので、観察時は注意深く見る必要があります(このページを作るにあたっても、苞が写り込んでいる写真を探すのに苦労しました)。

 

#5 花の両脇から、オトメエンゴサクの全縁の苞が見えます
#5 花の両脇から、オトメエンゴサクの全縁の苞が見えます

 

 #6は苞の形状を示すために掲載しましたが、花色もかなり薄いですね。 青色から青紫色の花が多いですが、中には白っぽかったり、黄色みを帯びている花もあります。 以下の写真では、それらの花色も見つつ、可能であれば、苞の形状も見ていきます。 写真の中の矢印は、苞を示しています。

 

#6 赤味が強い、紅紫色のオトメエンゴサクもありました
#6 赤味が強い、紅紫色の個体もありました
#7 白色に近いがわずかに青みが入るので、白花ではないと思います
#7 白色に近いがわずかに青みが入るので、白花ではないと思います
#8 オトメエンゴサクの白花かな?
#8 白花かな?

 

 #8は、わずかに黄色味がかっていますが、白花といってもよいような個体です。北海道に咲くシロバナエゾエンゴサクであれば Corydalis decumbens (Thunb.) Pers. f. albescens (Takeda) Ohwi ex S.Akiyama の学名がありますが、本州のオトメエンゴサクの白花の学名は見つけることができませんでした。

 

 

<写真の撮影情報>

#1〜#3、#6 2008.05.05 新潟県新発田市 alt=240m

#4       2006.06.03 群馬県中之条市 alt=1576m

#5、#8    2007.03.24 新潟県燕市   alt=35m

#7       2008.04.06 新潟県燕市   alt=35m

 

 

< 参考にさせていただいた図鑑や外部サイト(順不同) >

文献・図鑑などの著作物や、個人・法人のWEBサイトにも著作権があることをご理解の上、ご利用下さい。

 

日本の野生植物 草本2 離弁花類  平凡社 1982年3月31日 初版第3刷 p.124

山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花  山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.248

Plants Index Japan(撮れたてドットコム)  比較画面 - エンゴサクの仲間

YList 植物和名ー学名インデックス  Papaveraceae(ケシ科)

山散歩 花散歩 徒然想  オトメエンゴサク

福原のページ(植物形態学・生物画像集など)  キケマン属エンゴサク亜科エンゴサク節

CiNii  本州北部に分布するオトメエンゴサクCorydalis fukuharae Liden(ケシ科エンゴサク属)の変異性と,その分類学的位置 → 国立国会図書館のNDL ONLINEより複写物を入手

岐登牛山彩々  エゾエンゴサク

木のメモ帳  エゾエンゴサクから盗蜜する

第51回日本生態学会大会 釧路大会公演要旨集

  盗蜜型ポリネーターがエゾエンゴサクの繁殖成功に及ぼす影響

Wikipedia  ヤマエンゴサク

 

※ 外部サイトは、それぞれの運営者の都合により、変更・削除されることがあります。

  最終閲覧:2020.05.20

 

 

2018.03.28 掲載

 

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 花さんぽ

  2008年6月7-8日 初夏の野反湖 その1 1/3

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コメント: 1 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    はなさんぽ (火曜日, 06 11月 2018 14:57)

    ありがとう