名の由来は、花の姿が乙女を思い起こさせるから... ではもちろんなく、箱根の乙女峠で発見されたからです。 箱根や天城山系にのみ生える、多年草です。 葉は腎円形で、長さは5〜7cmと、わりと小さめです。
花は5月〜7月に開きますが、普通葉は出ません(鱗片葉は出ます)。 花はそのまま年を越し、翌年の5月〜6月に結実しますが、そのときに普通葉が出ます。 その年、新しい花はつけません。 そして次の年は、また花を咲かせ、普通葉はつけない。 つまり花と普通葉は、1年おきに交代して形成されることが特徴です。
このような変わった生態は、他の寒葵の仲間には見られないそうです。 なぜ花と葉を同時に形成しないのでしょうね? それだけのパワーがないのかな? あるいは、別の理由があるのか...? カンアオイ属は、葉や花の形態だけでなく、その生態も多様性に富んでいますね。 カンアオイの仲間は、分布を拡大する速度が極端に遅いので、生育域の環境に左右されやすく、このため各地に固有の種が分化しているそうです。
箱根の乙女峠って、どこだ〜? と思って地図を探ったら、簡単に見つかりました。 発見地であるここにも、まだいるのでしょうか? 今回の撮影地は、とんでもなく離れている訳ではありませんが、まったく別の場所でした。
カンアオイ属の花と言えば、地面にくっつくように咲いて、暗〜く、地味〜な花が多いと思っていました。 でもオトメアオイには、緑色と暗い紫褐色の花がいるのです。 このときは、両方を見ることができました。 緑色をしたカンアオイ属の花は見たことがなかったので、とても新鮮な印象を受けました。
このような感じで咲いていました。 葉は腎円形で、
長さ5〜7cmほど。 葉の緑白色の斑紋が目立ちました。
なかなか鮮やかで美しい色です。 あ、もしかすると
今初めてカンアオイ属の花を「美しい」と思ったかも。
今まで「面白い」とは思っても「美しい」とは思った事
はなかった気がします。
イイ色です! 萼筒部には、黒っぽくて細い縦線が見えます。
さてこちらは紫褐色の花。 緑色の花をつけた
個体と、花色以外の差異はないように見えました。
葉柄の色も、両方とも紫褐色でした。
紫褐色の花は... 渋いです。 華やかさはまったくありません。 乙女どころか、いぶし銀の中年男です。 萼裂片には、わずかに緑色も入っているように見えました。
萼筒口、つまり丸く開いた穴の部分には、ややいびつな環(口環)があります。 萼筒の内面には、縦に走る15〜21条の細い隆起線があり、横にも何条か隆起線が入って、格子状になるそうです。 この隆起線の数や形状が、カンアオイ属の同定に有力な手がかりになるそうです。 でも暗くてまったく見えませんね。 萼筒の中には、12個の雄しべと6個の花柱があるはずですが、ライトがなかったのでそれらが見える写真は撮れませんでした。
図鑑には、花をズバッと縦に切断した断面の写真が載っていますが、私たちはそういったことはしないので、外から見える範囲での観察になります。
花の径は1.5cmほど。 先ほどから「花」と言っていますが、写真で見えている部分は、萼です。 花弁に相当する器官はないか、退化して非常に小さいです。 またあっても萼筒の中なので、外からはなかなか見えにくい。
カンアオイ属では3個の離生した萼片が、下半分ほどは合着または接着して、鐘形や筒形、または壺形を形成します。 萼片の上半分は3つに分かれて開き、平開するか、種によっては反り返ります。
少しアングルを変えた写真です。 紫褐色の花の萼筒にも、緑色の花と同様に黒っぽい縦線が見えます。 萼筒は丸みを帯びた円筒... 要するに樽(たる)形ですね。 樽の部分の長さは、1cmほど。 樽の上部(写真では下側)には、わずかに「くびれ」があります。 このことがどれほど重要かわかりませんが、初め図鑑がどこのことを言っているのかわからず、悩みました。 写真の矢印の部分を言っていたのです。 数ヶ月も経つとまた忘れそうなので、しっかり図示しておくことにしました。
珍しい花を見ることができて、大満足でした。 自生地に案内いただいたお花の大先輩に感謝いたします。
ご参考(カンアオイ属の分類に関する外部サイト):カンアオイ属(Wikipedia)
2015.11.15 掲載
かりん (火曜日, 17 11月 2015 09:46)
毎回楽しみに拝見させていただいています。
知らないことばかりで勉強になります。
最後の2点の個体はちょっと変わった形ではないかと思います。
このあたりにはもう1種 「シイノミカンアオイ」があると聞いています。
判別がつかず小生も困っています。
カンアオイにハマると段々とわからなくなります。
HiroKenのKen (火曜日, 17 11月 2015 21:57)
かりんさん、ご指摘ありがとうございます。
最後の2枚の写真は、シイノミカンアオイの可能性あり、ということですね。
恥ずかしながらシイノミカンアオイは知りませんでした。
オトメアオイの変種なのですね。伊豆半島に分布するとのことですが、ここは
伊豆半島の根本あたりなので十分可能性がありますね。
今後また見る機会がありましたら、花の大きさなど詳しく調べてみたいと思います。
今後もお気づきの点がありましたら、お気軽にコメントをお寄せ下さい。
ゆき (土曜日, 12 12月 2015 17:23)
こんばんは、HIROさん、kenさん、オトメカンアオイの詳しいお話し、ありがとうございます、お花が、かわいらしい、所やグリーンのお花など、見ていて、楽しいですね、オトメカンアオイのみに、見られる、特異性や生育環境が重複する場所での多品種との交配で、変わった個体も、見れそうですね。
HiroKenのKen (日曜日, 13 12月 2015 04:49)
ゆきさん、いらっしゃいませ。
日本にはカンアオイ属は約50種もいるようで、その多様性に驚きます。 おっしゃる通り、生活環境が重なる場所での交雑種も多数いるのでしょうね。 今後研究が進み、それらも新しい種として発表されるかも知れませんね。